人財活用06-能力を探す旅

能力は、座っているだけでは手に入らない。旅に出て探すぐらい本気にならないと。そのときに《小さな地図》が役立つかもしれない。

■能力を獲得するための4つの方法

組織や個人が、能力(技術・知見・技能=スキル)を高めるには、どんな方法があって、どう活用したらいいのか。

いつものように、世間とはすこし違う切り口から入る。能力獲得の小さな地図、デミマップ(DeMiMaP)の語呂合わせで考えよう。

De (Development) 開発
Mi (Mining) 採掘
Ma (Matching) 結合
P (Procurement) 調達

■能力を開発する (Development)

能力開発については世間で膨大な情報がある。まだ語らなければならないことも多い。ここでは、よく使われる《OJT》ということばに注目しよう。「能力開発ですか。ウチはOJTでやっています」などと。

だが考えてほしい。座学や外部研修といったOff-JTに割くことができる時間は、すべての就業時間のせいぜい1%未満だろう。残りの99%は仕事中の時間だ。余暇時間以外に本気で能力を開発しようと思ったら、そこに学びの要素を乗せていくほかはない。

ほとんどの能力開発はOJTだ。とすれば、「OJTをやっている」とだけ騒ぐのは無意味。どれだけ無理なく効果的に、職場風土に染み渡った形でOJTをやっているかと騒ぐのは意味がある。このシリーズでも方法論を語ることにする。

■埋もれている能力を掘り出す (Mining)

これは開発の一種ともいえるが、あえて切り出したほうがいい。それだけ大切だからだ。ふたつのアプローチがある。

(1)組織に埋もれている能力を掘り出す
「厳密な職務定義のもとに、それに合致した人財を採用しました」といった場面を見たことがあるだろうか。諸外国では普通でも、わが国ではそうではない。新卒一括採用で入ってきた者たちは、もっとあいまいな、なんとなくデキそうだという理由で選ばれている。

だからこそ、履歴書ではわからないスキルを持ちながらも、それが感知されず活かされていない、ということが起こりうる。キャリアの棚卸、スキル申告、さまざまな方法を使って掘り出す必要がある。

(2)個人の中に埋もれている能力を掘り出す
スキル申告で表沙汰にできるのは、本人が自覚している能力だけだ。気づいていない能力というのも実はあって、これのほうがずっとやっかいだ。

個人スキルの発掘に特化したワークショップやセミナー、個人への日ごろからのウォッチングと対話、啓発。それらが意図的にできれば、組織としてのパフォーマンスはやがて大きく変わってくるだろう。

■能力を組織の使命とマッチさせる (Matching)

せっかく開発した、または発掘した能力も、仕事内容とミスマッチを起こせば効果は大幅にダウンする。組織の要求スキルと個人の保有スキルを突き合わせる作業が必要になる。

分析の対象は以下の4つの象限だ。このマトリクス(スキルマップ)は次号でくわしく触れる。

・組織として現在要求するスキル、将来要求するスキル
・個人の現在保有スキル、将来取得を希望するスキル

これを可視化すると、個人への担当割りや使命の配賦が的確にできるようになる。さらに組織のどのあたりの能力が手薄か。それをあぶり出すことにもなる。

■調達する (Procurement)

上記であぶり出された能力の不足分は、《開発》や《採掘》でも補うことができる。だが即効性でいうと《調達》の出番だ。社員の補充採用、派遣受け入れ、業務委託などがこれに当たる。

派遣や委託を使って好都合なのは、原則として《ノンコア業務》だ。組織にとって本来的な目的達成手段が《コア業務》。そこに安易に外部資源を使うと、長い目でみて競争力が低下したり、業務が空洞化したりする。

そんなことは当然とわかっていながら、あちこちの企業で業務の空洞化が進んでいる。これにはいろいろな原因があるが、コア・ノンコアの切り分けひとつとっても、実は深い判断を必要としているのだ。

いままで述べてきた《能力のDeMiMaP》。この4つを並行して使いこなすことが人財能力獲得の早道になる。バランスよい目配りが効果的だ。

DeMiMaPとは、ことばの意味として「半欠けの地図」のことであった。あと半分の地図があって初めて、宝探しは完結する。その半分に描かれているものとは?

それは《能力の獲得》を強力にサポートする《使命》と《意欲》だ。

(あもうりんぺい)

□連載「人財活用」メニュー□

人財活用05-意欲を注入する

《意欲、モチベーション》は遊園地でもらった風船と同じだ。始めはパンパンで天井にはりついているが、ふと気づくと、しわくちゃになって床にころがっている。

どうなると意欲が下がるのか。

(1)年齢を経ると下がる
人にもよるが、普通は小学生時代をピークにして下がり続ける。だがこれは根本原因ではないし個人差も大きい。加齢とともに以下の各要素が働いた結果だと思えばいい。

(2)組織に安住すると下がる
だまっていても安全をおびやかされることはない。そうわかってくると、新鮮だった意欲が下降線をたどりだす。

(3)達成感、変化や刺激がないと下がる
意欲の火付け役はまず仕事本来の達成感。そして変化や刺激だ。刺激は「美や感動」のこともあるし、「衝撃的なできごと」のこともある。青色LEDの中村修二教授のように「怒り」を刺激の元としてきた人もいる。これらをうまく注入しないと、意欲は続かない。

(4)困難や理不尽で下がる
職場で働きが評価されない。企画や提案が通らない。じっとしていたほうがいいということになる。もうひとつの困難は、「難しすぎる、やり方がわからない」だ。これも意欲を大幅に下げる。

(5)信念がないと下がる
最大の要因がこれだ。安穏や困難や理不尽は、じつは避けられないものだ。表面的に平和なこの国では、よけいそうだ。それらの下降要素をかき分けて進む原動力がこの信念である。

では、意欲を持ち上げるにはどうしたらいいのか。各要素は上記「下がる原因」の裏返しになる。組織から構成員に対する働きかけ。個人から自身への働きかけ。両面が必要だ。

(1)気を若くする
これは意識の持ち方だ。以下の(2)〜(5)すべての材料を拾い集めて「気のはり、集中、活性」という《気のもちよう》に収束させる。

(2)組織に安住しない
組織からの働きかけ:
安住しないようにといっても、いきなり成果主義への大転換などは難しいだろう。だが手をつけやすい刺激策がある。それは《ルーティン化というサボタージュ》を防ぐことだ。管理部門や生産部門を問わず、いつのまにかルーティンに安住し、工夫のない日常をくりかえすだけになってしまう。そうなっていないか見にいって、だめなら改善する。内部監査を手段に使えばいい。内部監査は不正不祥事のためだけにあると思ったらそれは間違いだ。

個人としての対応:
いまの組織は昔ほど安泰ではない。また組織内での個人の地位も安定していない。日常忘れがちなそのことに注目するために、組織外の人たちと交流してみる。業界動向や社会全般の動きも注視しておく。自分の組織がいかに安泰でないか。危機感を持つことができるだろう。

(3)達成感、変化や刺激で火をつける
組織からの働きかけ:
達成感が目に見えるようにする。見えにくい職種の場合は指標を工夫する。また上司が積極的に評価の言葉をかける。バックヤードの者が接客に出る。
困難な仕事を与える。(パワハラにならないよう、上手にサポートする。)
担当を適度に変える。(キャリア設計に悪影響がないようにしながら。)
職場集会、改善運動、スローガンなどの刺激策をとる。

個人の対応:
仕事の面白さは「なにをやるか」ではなく「どうやるか」だ。だれがやっても結果は同じになる仕事でも、達成感を見つけることができる。むしろそれこそ、改良するチャンスが与えられたということだ。工夫を武器にすることだ。

(4)困難や理不尽を取り除く
いまの組織が圧倒的に低意欲なのは、理不尽要因が強いからだ。

・ほめない文化
・働かないおじさん
・保身で頭がいっぱいの上司
・できない理由を考えるのだけがうまい管理部門
企画つぶしを自分の仕事だと勘違いする役員

こんな環境で意欲が下がらなかったら、そっちのほうがおかしい。こうした環境要因をひとつずつ取り除いていくことだ。といっても難しいことばかりだろう。取り組む方法の考察はこのサイト全体の役割だが、これだけは言っておこう。

《これらの障害要因に正面から取り組むことが、とても大きな組織の伸びしろになる。》

(5)信念を持つ
組織からの働きかけ:
前回までに述べたような《使命》の設定を明確にしておくこと。それが組織貢献にとどまらず、多くの人を幸せにするものであることが実感できれば、仕事の使命と意欲が《信念》に昇華する。その力はとても強い。

組織の使命自体、多くの人を幸せにするものであるのは当然だ。もしそうでなければ、使命や組織の成り立ち自体が間違っていないか、疑いをかける必要がある。

個人の対応:
組織・部門・個人の《使命》を納得いくまで咀嚼しよう。腑に落ちなければ、上司とディスカッションすることだ。使命の達成と突き合わせるように自分の《能力》を補填していく。これらを通じて信念が強化される。

放っておくとしぼんでしまう意欲。もう一度パンパンにするには、いろいろな方面からパワーを注入してやる必要がある。あなたの組織にとって最適な方法はどれだろうか。

(あもうりんぺい)

□連載「人財活用」メニュー□

人財活用04-使命をデザインする

■部門使命の提案

部や課の使命について考えよう。読者が組織人なら確認してほしい。所属する部門に《使命》があるだろうか。「業務分掌」ならあると思うが、ここで言うのは「○○の事務に関すること」といったヌルい記述のことではない。

組織全体の使命に直結して、それを細分化(ブレイクダウン)し、価値観まで伝わってくる言葉のことだ。もし、ないのなら作ってみることを勧める。言わなくてもわかると言っていないで。部門使命の明文化は、日々の活動の方向が明瞭になるし、次の「個人の使命」への橋渡しにもなる。

使命を考えていくと、それはひとつではないことがわかってくるだろう。「日常実務のため」と「将来のため」、構成員の精神的なよりどころまでもカバーする。

★使命設定の例:(映像製作会社を想定)
会社の使命:「良質な映像作品を供給し続けること」
部門の使命:(同社の法務部門を想定)
(1)「良質な知的財産のトレーディング・保護・育成を中核とした戦略的法務の遂行」
(2)「同上をベースにした法務関連イノベーション」

育成や部門連携、取引先・グループ会社連携などは当たり前であり、どの部門も共通だから省いている。

イノベーション条項は必須ではないが、将来を見据えた使命設定になじみやすい。イノベーションは天才のひらめきを待つものではない。実現性は低いが影響の大きい結果を求めて組織的にアプローチするものだ。また日常業務に組み込むものでもある。

■それでは個人の使命とは

個人の使命は、ひとつ決めて終わりというものではない。本人の能力の向上、構成員の出入りなどによっても変わってくる。いつも見直しが必要だ。

いまは《分担》ではなく《使命》の話をしているので、当人の意識への配慮も要する。管理側の都合によって無定見に変えるのはよくない。設定も変更も、本人意思を尊重したデリケートな配慮が必要だ。

人財活用の連載趣旨に照らしてみると、適切な使命配賦は《能力》があって《意欲》も持てる分野ということになる。さらには能力と意欲を涵養できるようにすること。そのためには、要求スキルをすこし高めに設定することだ。(次回で触れる。)

★一個人の使命の例:(法務担当)
(1)「米国著作権法のエキスパートとしての戦略的調達・契約業務の遂行」
(2)「同上をベースにした法務関連イノベーション」

使命は制約ではない。単なる《責任》でもない。たとえ間接部門でも、本業に直接寄与するイノベーションをもたらす余地がある。そのために上の条項(2)があるのだ。組織員の仕事はルーティンをこなすことではなく、工夫することだから。

■提案のまとめ

・《部門の使命》がないなら作る。
・それは組織の使命に直結するものである。
・《個人への使命配賦》を見なおしてみる。ないなら作る。
・易しすぎず、到達可能な難易度を設定する。
・使命には日常業務だけではない、将来展望も組み込む。

(あもうりんぺい)

人財活用01-三つのしょうがない

人を仕事にかりたてるエンジンはなんだろう。筆者は《三つのしょうがない》を提唱している。

・やらなきゃ、しょうがない《使命》
・やりたくて、しょうがない《意欲》
・できるから、しょうがない《能力》

それはなんなのか。

【1】やらなきゃ、しょうがない《使命》

この中には「やらないと困ること」《必要・義務》も含む。その延長上に、人によっては以下のような方針をしっかり立てている者もいる。
・言われたからやる(言われないとやらない)
・怒られないようにやる(怒られないとやらない)
・お尻に火がついたらやる(つかないとやらない)

だがそれは置いておこう。(いやこの《やらない3兄弟》も、とても大切なので別稿で扱う。)

この「やらなきゃ、しょうがない」には、《必要・義務》よりもずっと大切な要素を含んでいる。見出しに掲げた《使命》だ。

・やらなきゃ、世の中どうなる(社会的使命)
・やらなきゃ、組織はどうなる(組織的使命)

・成長のためには、やらなきゃ(成長の使命)
・リスクを断つためには、やらなきゃ(防御の使命)

使命はすべての出発点になる。だからこそ大事なのは、考え抜いて組織の使命を設定すること。それを上手に切り分けて構成員に配ることだ。

【2】やりたくて、しょうがない《意欲》

いくら必要なことでも、意欲が伴わないと、続けていくことは難しい。

最初はだれでも意欲的だ。だが困ったことに、放っておくと意欲は減り続ける。その原因は加齢、安住、刺激の不足、理不尽など。(人活05で扱う。)

人はだれも「仕事でしたいこと」を自分の中に持っている(みつけられずにいる者もある)。そして目の前に仕事があるときは、そちらに自分のやる気を振り向ける方法も持っている。

こういう荒っぽい議論を聞いたことがあるだろう。
「仕事はなあ、やりたいことをやるんじゃないんだ。やらなけりゃいけないことをやるんだよ」
やらなきゃいけないことの優先度が高いのはそのとおりだ。だがそんな単純な話ではないことは、いままでの議論でわかってもらえると思う。

個人としても組織としても、意欲をどうコントロールするかが課題だ。意欲の設計、意欲のふくらませ。これはほかの《しょうがない》にくらべても奥が深い。やりたい思いを、めいっぱい溜めることがリーダーの能力だ。

【3】できるから、しょうがない《能力》

能力が伴っていないと、いくら必要なことでも、いくらやりたいことでも、できないのは当然だ。できないから、しょうがない。

これがいったん「できる」となると、まわりが放っておかない。自分も放っておかない。下のような「しょうがない状況」になる。

・自分でなけりゃ、しょうがない(能力可能)
・いまでなけりゃ、しょうがない(適時対応、状況可能)

仕事にかりたてる力としては、上の「自分でなけりゃ」のほうが大きい。以下はそれに沿って語る。

使命に適した能力のある者がいれば、組織(上司)の側はそれを起用して、メリハリのある担当設定をしやすくなる。

能力の裏付けがあると、自信も意欲も湧いてくる。自分が能力的に組織のオンリーワンであった場合はよけいに、能力の発揮自体が使命感にもつながる。

「自分でなけりゃ」の状況を作りあげることの大事さは言うまでもない。

力強く進んでいく仕事では、《三つしょうがない》が互いを高めあい、抜き差しならないほどからみあっていく(次回、仕事の三角スパイラル)。そうなると、外から邪魔しようとしてもしょうがないほど、仕事に弾みがついてくる。

どうころんでも、仕事というのは「しょうがない」から、やるのである。

(あもうりんぺい)

□連載「人財活用」メニュー□