そっぽを向く二匹の猫

人はなぜ集うのか1-対人志向の円環

■なぜうまくいかないのか

職場や友達グループの人間関係は多くの人を悩ませ、時間の浪費やストレスを強いるものだ。心を病んだり、自殺や殺傷事件といった惨劇を招いてしまうことさえある。

被害者の側から語られることが多いが、それならば加害者もいるのか。「加害者」はそんなに悪い人たちで、そんなに職場ごとに存在するのか。

こう考えたほうが自然かもしれない。人それぞれが持っている心の方向性が違う。すると人の組み合わせによって「合う・合わない」が出てしまう。組み合わせしだいで、人は被害者にも加害者にもなる。そう考えれば解決の糸口も探れるというものだ。

人は人と関係する中で「求めて得たいもの」がある。それを対人志向と呼んでおこう。会社などの組織や趣味サークル、友人関係など、集団の性格によって見かけは違うが、対人志向の本質は共通するものとして読み解く。

■華やかなパーティの舞台裏

とあるパーティ会場に潜りこみ、そこに集う人たちの胸中を垣間見ることにしよう。

1.「ためになることをしてあげて、相手の喜ぶ顔がうれしい」(奉仕)

2.「環境問題の材料を仕入れてきたから、議論していい結論を出そう」(共創)

3.「これはライバルチームを打倒するための決起集会だ」(共闘)

4.「知識を見せつけて彼を負かしてやるぞ」(闘争)

5.「ひどい言葉を浴びせたときの相手の表情が楽しい」(嗜虐)

6.「平和な表面をつくろいながら、相手をだまして奪い取ってやるのさ」(略奪)

7.「あの人は顔が広いので、仕事を紹介してもらいたいな」(利得)

8.「気持ちよくほめられたいので、服装も話題もめいっぱい準備してきました」(承認欲)

9.「この集団がなくなると、自分も消えてしまいそうな気がして」(依存)

10.「感覚が合うのか、二人でいつも盛り上がっています。『それ、あるあるよね』といった感じ」(共感)

11.「いろいろな人がいるのがうれしいし、自分と違えば違うほど敬意をもって認めたくなる」(寛容)

0.「損得ぬきの好意と好感に満たされている」(友愛)

■対人志向の円環が語る

上で見たさまざまな胸中は、下図のように円環上に配置することができる。これは色彩学でいう「色相環」と似通った以下の特質を持つ。

◇隣り合った要素同士は近縁性があり、順にたどることですこしずつ性質が遷移する。
◇円環をひとめぐりすると元の要素に戻る。
◇対称の位置にある要素同士は、ある意味で対照性がきわだっている。

対人志向の円環 12の志向を色相環上に配置
図: 対人志向の円環

12種の対人志向を定義づける。(組織の課題なので、恋愛・性愛は別軸として省いている。)

1.奉仕
相手に尽くし、または集団の利益を図ることに価値を見出す心理。親は子に対し無償の奉仕心を抱くものだが、対象を他人にまで広げて考えるとわかりやすい。人は多分にこの傾向性を持っているものの、現代社会においては淘汰されやすいので、その感情を抑圧していることが多い。

2.共創
ひとつの価値を相手と共に創りあげようとする志向。知力が優れた者にこの傾向が強く、多くの場合、自分のオリジナルな業績を大切にする心理も併せ持つ。

3.共闘
共通の攻撃対象を持ち、共同で目的を達成する心の動き。結束や求心性の原動力になる。会社や団体競技などの組織運営に活かすべきだが、その一方で、戦(いくさ)に駆り立てる感情もこれと同じ原点を持つ。

4.闘争
目の前の相手よりも能力やポジションで上に立ちたい気持ち。
これが健全に働けば、よきライバル心がおたがいを高め、組織にも好影響がある。だがいたずらな攻撃性が全面に出ると、自慢話に終始したり、目の前の相手を罵倒したりと、大きく和を乱すことにもなりかねない。自己の優位性をそこまで貪欲に確認したがるというその裏には、抜きがたい劣等意識が隠されていることが多い。

5.嗜虐
相手に残忍な仕打ちをすることで快感を得る。言葉や感情面の圧迫も、直接の身体的な攻撃も含む。

6.略奪
財物や感情的満足などを奪い取る。財物とは金銭・物品・情報のこと。
「意地悪」は、≪嗜虐≫のカテゴリに入るとともに、相手を犠牲にして自己の利益(感情的満足、優位性、経済利益)を得るという意味で略奪カテゴリにもまたがる。この場合の経済利益とは、職場で人を陥れることで相対的に自分のポジションを上げ、出世に結び付けるなどのこと。

7.利得
相手の持つ地位や財力を頼って、財物(金銭・物品・情報)・口きき・人脈・利権配分などの経済的利益を期待する姿勢。

8.承認欲
他人からの賞賛を求める。ほめられたい、尊重されたい。自尊や劣等の複合的な感情を収めるために他者評価を望む気持ち。悪評を避ける防衛的な姿勢もここに含む。

9.依存
対人関係や集団への帰属が、自分の存在を証明する手段(アイデンティティ)になっている。依存する対象が一人の人の場合、機嫌をうかがったり自分の行動を同化させようとする。相手が集団の場合は、それを愛するあまり、しばしば組織防衛に走る。

10.共感
共通の立場や体験、感情や価値観を基に、互いの存在を尊重し合う姿勢。この方向性が高まり純化していくと、立場の違いを乗り越えて普遍的な共生意識にまで至る。別稿でも議論するが、社会に生きるために、また社会を生かすために、切り札となるのがこの共感の力だ。

11.寛容
他人を認め、許す心の傾向。「あきらめ」や「忍従」とは無縁、あるいは正反対だ。本人の自信が高まるにつれ、寛容の対象は他人の能力や嗜好・思想・存在自体などに広がっていく。

0.友愛
無差別な肯定と包摂的な愛情。これは人の行動や思いのあちこちに顔を出す普遍的なものだ。しかし無差別さと包摂の度が進んでいくと次第に生きにくさが増してきて、「1.奉仕」「11.寛容」よりもさらに抑圧される傾向が出てくる。

◆「対人志向の円環」を使って、次回からは対人志向の組み合わせと、個人や組織での活かし方を検討する。

(あもうりんぺい)

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「人はなぜ集うのか1-対人志向の円環」への4件のフィードバック

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