人はなぜ集うのか4-価値を高める組み合わせ

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「人はなぜ集うのか1-対人志向の円環」
「人はなぜ集うのか2-対人志向のタイプ分け」
「人はなぜ集うのか3-組み合わせが生む悲劇」

対人関係の組み合わせは悲劇ばかりを生むのだろうか。そうではない。たがいに補い、価値を高めあうものもある。

◆共闘タイプと依存タイプ ~戦友として認めあう

※「相手」と言ったとき、一人の個人のことと、複数人からなる集団のことと両方の意味がある。対人志向を考えるとき、いつも両者を並行して視野に置く。

<3.共闘タイプ>と<9.依存タイプ>は、ともに相手への協調に大きな価値を置いている。共闘タイプが外の敵に向かって行動し、目的達成意欲が高いのに対して、依存タイプは相手との空間に内向して満足しようとする、という対照がある。両者は対人志向の円環上で対極の位置にある。

共闘タイプと依存タイプをハイライトした対人志向の円環
対人志向の円環 共闘タイプと依存タイプ

依存タイプは非行動的かというと、一概に言えない。その特徴の中で行動に焦点が当たっていないだけだ。相手に駆り立てられて行動する傾向は、依存性が高いゆえに大きい。

営業やエリア開拓、戦略的法務など、外部に明確なライバルや敵がいて、結束した戦闘行動を要求される集団を想定しておこう。

ここでは共闘タイプが主体として動くことがまずイメージできる。だが集団は同じ色の者だけで固まると、もろくなる。多様なタイプの混在が必要だ。その中でも忠実な戦闘員として、また結束の粘着剤として、依存タイプが占める役割は大きい。

共闘タイプと依存タイプが適度な割合で混成した集団は、高い戦闘力を持つ。個人対個人の関係でも、共闘タイプは相手を「実直な同志」として認め、依存タイプは相手を「頼りがいのある依存先」とみなして良好な関係を保つことができる。共闘タイプと依存タイプは良い相性で結ばれている。

◆共創タイプと寛容タイプ ~多様性とモチベーション

<2.共創タイプ>は集団でひとつの価値を創造することに意義を見出す。その過程で集団構成員の能力や感覚、価値観の多様性が確保されることが大切と考える。
<11.寛容タイプ>は、多様な人格の存在が好ましいという価値観を最優先する。

共創タイプと寛容タイプをハイライトした対人志向の円環
対人志向の円環 共創タイプと寛容タイプ

寛容タイプが執務能力と統率力を高めていくと、優秀な指導者に仕上がってくる。

指導者を成り立たせる資質はさまざまで、たとえば独断や強権を好む者も視野には入る。だが寛容タイプが持つ「多様性の尊重」は、集団運営においてきわめて威力を発揮する。それほど集団にとって多様性は欠くことのできない要素になる。構成員すべてを強く動機づけて活かすのは、型にはまった行動特性の強要ではなく、その反対の多様性の尊重だからだ。

寛容タイプ指導者の下に集結するメンバーは、共創タイプを重用するのが望ましい。共創タイプもまた多様性を認めながら他者の資質を活かし、みずからを活かすことを活動の基盤にするからだ。

「寛容タイプと共創タイプ」を、「集団の指導者とメンバー」として例示したが、それにとどまらない。逆に共創タイプ指導者と寛容タイプ構成員も成り立つし、両者の混在は集団にとって居心地の良さとモチベーション、そして競争力のすべてを押し上げることになる。研究開発や企画など創造性を要求する分野を始め、それ以外の集団全般について言えることだ。

◆共感タイプと承認欲タイプ ~称賛を通じたきずな

<8.承認欲タイプ>は、自分の業績や人格・能力・容姿など多方面で承認を求める。ここで承認とは肯定的評価のこと。ひかえめな認知・受容(知ること、とがめなく認めること)から高らかな称賛までレベルは幅広い。承認欲タイプの者は、自分がより高い承認を得ることを希求している。

<10.共感タイプ>は、相手と共通する体験や感性をみつけて一体感を楽しむ。そこには互いに対する尊敬と肯定、称賛が混ざる。

共感タイプと承認欲タイプをハイライトした対人志向の円環
対人志向の円環 共感タイプと承認欲タイプ

承認欲タイプの者に対しては、必要があればもちろんどんなタイプの者からでも承認を送ることができる。必要があればとは、たとえば部下に対する上司や、仲良くなりたい異性。だがそれが相手の心に響くかどうかは別問題だ。懐柔したい下心は容易に見抜かれるものだ。

共感タイプは承認欲タイプに心からなる承認を送ることができる。その内訳はふたつあって、ひとつは相手の属性や言動に対する共感に基づいている。これは相手が承認欲タイプに限らない。もうひとつは「承認欲タイプが承認を求めること」に対する共感。

人はだれでも認められたいし称賛されたい。対人志向の円環の12要素は、人が多かれ少なかれ持っている傾向性だが、とりわけ承認欲求はだれの心の中にも普遍的にある。現代社会においては突出的といってもいいほどある。これは共感タイプの者でも例外ではない。

共感タイプの「共感」には、「普遍的な共生意識」に至るより手前に、もっと低レベルな内訳として「相互に承認したい - 自分も承認されたい」心がある。承認欲タイプも、普通にバランスのとれた人格でいる限り、相手からの承認への反対給付として承認を返す準備がある。

共感タイプが承認欲タイプの欲求に触れたとき、「そうかほめてほしいんだね。存分にほめてあげよう。こちらにも承認が返ってくるだろうし、それでおたがいがハッピーになればいい」と共感的に反応するのは自然なことだ。

称賛されたい心と称賛したい心が一体になって、承認欲求タイプと共感タイプのきずなが強まる。

いままで見てきたことをふまえ、さらに組織に役立てることはできるのか。友人や上司部下などの1対1の関係への応用はどうか。次回へ。

(あもうりんぺい)

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人はなぜ集うのか3-組み合わせが生む悲劇

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「人はなぜ集うのか1-対人志向の円環」
「人はなぜ集うのか2-対人志向のタイプ分け」

対人志向のタイプ分けの話。前回に続いて、これはちょっとイカンと思われる組み合わせの悲劇を考える。

◆共創タイプと闘争タイプ ~創造ができない

<2.共創タイプ>は人と共同してひとつの価値を作り上げようとする。人の資質は多様であるべきと考え、人と交流すれば相互に触発があると信じている。<4.闘争タイプ>は相手を屈服させることで自分の優位を確認する。手段は問わない。

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対人志向の円環 – 共創と闘争

仕事でなにかプロジェクトを組むとする。メンバーはそれぞれの強みを活かしつつ一丸になって目標に向かう。共創タイプにとっては燃える状況だ。

メンバーに闘争タイプがいると話が違ってくる。たとえば共創タイプが提示した企画や素案に対して闘争タイプが文句をつける。内容を切磋琢磨するためならいいのだが、闘争タイプは「勝つことが目的」だからそうではない。さっきまで自分が言っていたことと正反対の主張でも、議論で勝つためには平気でする。

共創タイプはメンバーの多様性を活かそうとする。各人が自分の感性や専門的能力を動員し、目標に向かってコンテンツを積み重ねていく。共創タイプの「議論」は、内容を叩いてどんどんよいものにしていくのだが、闘争タイプがいるとその向上サイクルがさっぱり働かず、叩き合いのまま企画自体の品質は低迷していく。

◆共感タイプと闘争タイプ ~よくある困惑すべき事態

円環上は対極の位置にある。<10.共感タイプ>は共通の感性や経験を見つけて、たがいを尊重する。<4.闘争タイプ>は前項に続いての登場だ。これは人数割合として多いだけに、組織への影響も大きくなる。

共感、闘争以外をグレイアウトした対人志向の円環図
対人志向の円環 – 共感と闘争

共感タイプは、さまざまな感性的経験を語る。「こんな映画見たよ。あそこが良かったなあ」「あの店、おいしかった」

闘争タイプは勝つことが会話の目的だから、難癖をつけようとする。「あの映画はダメだよ、なぜなら…」「あのレストラン、悪いうわさがあるよ、それは…」知識でも優っていることを強調するためにウンチクつきだ。勝つためにはハッタリや知ったかぶりも自在に繰り出す。

共感タイプは、すべてに同意を求めるわけではなく、感性のふれあいがほしい。そのうえで「いや自分はこうだった」と違いが出るならばそれでいい。場を共有し、なごやかに感性的体験を述べあったことで共感を持てるのだ。

闘争タイプは、自慢や相手への非難を挟みながら自分の優位を確保する。共感タイプとの組み合わせでは、相手が不戦主義なので、一方的に叩きのめして終わりになる。あとに残るのは不信と落胆。とくに共感タイプにとっては理解できない理不尽な仕打ちに映る。

職場でも友だち関係でも、この組み合わせはよくあるだけに、くりかえされる悲劇の総量として甚大なものになる。

◇闘争・共感の組み合わせにはこんな面も

この組み合わせは恋愛関係においても発生しがちだ。間合いを詰める途中や熱がこもっている間は、おたがい存分にやさしく振る舞うからいい。粗熱が薄れて、そろそろ密着した個人同士として行動するあたりから、この悲劇が顔を出すことがある。

ウンチクをたれ、力を示し、なにかと優位に立とうとする男性。二人が同じ方を向きながら手をつないでいたい女性。たがいの向きの違いに気づかないと、心の溝が深まるばかりになる。(男性、女性と言ったのは、くりかえしになるけれど傾向性を述べたまでだ。本来は多様だろう。)

心理学でこんな実験結果があるという。男の子だけのグループ、女の子だけのグループを作って、それぞれに同じ作業をさせる。すると男子は「対立」を基調とした動きをする。「いやそうじゃないんだよ、こうなんだ。」女子は「協調」を軸に行動する。「こうなのよね、そうよね。」ここでいう「対立」と「協調」は、対人志向の<闘争>と<共感>の関係に似通っている。

◆友愛タイプと略奪タイプ ~きわだった二人

<0.友愛>タイプは社会の制約の中で善行を模索する。人に接するときは善意を信じ、ともに栄えるように心を砕く。<6.略奪>タイプは人の持てるあらゆる資産を収奪し、相手の好意さえも利用しようと策をめぐらせる。

友愛、略奪以外をグレイアウトした対人志向の円環図
対人志向の円環 – 友愛と略奪

この両者のように、きわだった傾向性を持つ者は、長年暮らすうちにみずからその本質を覆い隠すようになることが多い。素のままの人格をさらけ出すと、とかく生きにくくなるからだ。

友愛タイプは、むやみにつけこまれることがないように防備を固めるし、気づかないうちに自身の友愛傾向を抑圧することもある。略奪タイプのうち社会的に破たんなく暮らす者は、その本質を隠蔽するためにことさらに紳士然とふるまい、獲物に近づく手段としての巧妙な擬態を身につける。

友愛タイプの慈悲心につけこんで略奪タイプがむさぼりつくすという構図が想定され、実際それも多いが、悲劇的すぎるから描写しない。また必ずそうなるわけではない。

友愛タイプがしっかりした主体性と能力を備えていれば、略奪タイプの侵攻を正面から撃退することも考えられる。友愛タイプ本来の包容力を発揮して略奪タイプに気づきを促し、心の救済にまで持っていくこともある。

両者の力関係やポジションによって、起きてくる事態はさまざまだ。職場などの組織で略奪タイプが上に立ったときには、配下の者の心理的な負担や労働負荷が大きく、深刻な危機が待っている。次回でも議論するが、人事においては執務能力や表面的なマネジメント能力だけではなく、個人ごとの対人志向を見極めておく必要がある。

(あもうりんぺい)

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人はなぜ集うのか2-対人志向のタイプ分け

■対人志向の円環をながめておく

円環の構造をさらに確認しよう。組織での活かし方を効果的に検討する手前で。
前回で述べた12種の対人志向の定義づけも参照してから見てほしい。

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対人志向の円環 領域ごとの属性

◆領域ごとに色がある

円環で上側の領域10~2<共感、寛容、友愛、奉仕、共創>は共同的で調和的な価値を追求している。下側4~8<闘争、嗜虐、略奪、利得、承認欲>は利己的・排他的な価値追求だ。

上下の中間領域にある<3.共闘>と<9.依存>には、上下にまたがる属性がある。<共闘>は同じ集団内では強固に共同的だが、共通の「敵」に向けて排他的だ。<依存>は集団に対して強く調和しようとするが、共通利益への志向と能動性が薄く、孤立した利己心を併せ持つ。

また中心線を含む右側の領域0~6<友愛、奉仕、共創、共闘、闘争、嗜虐、略奪>は価値追求の途中でなんらかの能動を伴うことが基本だ。対応して左側7~11<利得、承認欲、依存、共感、寛容>は受け身的になるか、または自分が行動した結果が相手に届き、その反応が返ってくるのを待つという性質がある。

左から上方にかけての9~11<依存、共感、寛容>は女性の中で比重が高い。右から下方にかけての3~5<共闘、闘争、嗜虐>は男性に色濃い。(平均的な傾向性をいうのであり、性差固定を意図していない。)

◆対極の位置にあるものは対照的

円環上で中心を挟んで点対称の位置にあるふたつの要素は、なんらかの対照性を持つ。たとえば:

<0.友愛>と<6.略奪>は、前者が無差別な愛情、後者は破壊的な欲得を特徴として、それぞれ円環の極北と極南の位置を占める。

<5.嗜虐>が相手の尊厳を崩しても意を介さず、むしろそのことに意欲を燃やすのに対し、<11.寛容>は自身への被害さえも受容し相手を尊重する。

◆隣り同士は似ている

隣り合った要素には近縁性があり、順にたどることですこしずつ性質が遷移する。いくつか例を挙げると:

<2.共創>と<3.共闘>は、ともに複数の者が一緒に価値追求をする。けれども<共創>が創造的な価値を対象にするのに対して、<共闘>は外部に敵を作って攻撃の要素が加わる。

<4.闘争>では相手を屈服させて自分の値打ちを確認するが、<5.嗜虐>になると、それに加えて相手を傷つけることが快感につながっていく。

<9.依存>は受け身の姿勢で集団と同化しようとする。それに対し<10.共感>ではそこから抜け出し、積極的な精神の交流で互いの存在を肯定するようになる。

このように、ひとつの起点から円環を順にたどり、ひとめぐりすると元の要素に戻る。

■どの志向が強いかでタイプ分けできる

一人の人は、対人志向として円環の12要素のひとつではなく複数、または全部を持っている。状況によっていろいろな志向が浮き出てきたり隠れたりするわけだ。

とはいえ、人によって特徴的な要素というものがある。ある人はだいたい共創的な姿勢だったり、別の人はいつも承認(業績や人格をほめること)を求めていたり、といったように。

この姿勢の違いは対人関係の場にとどまらない。≪なぜ生きるのか≫≪なぜ働くのか≫といった究極的な価値観や行動律の違いを背景に置いている。それは別に議論し、ここでは対人志向に限った話をする。

円環の12要素のうちどの志向が強いかによって、人を12のタイプに分けることができる。ただこれは生涯変わらないものでもなく、傾向がすこし強いか弱いかの相対的な判断だ。決めつけにならないように注意しておこう。

■組み合わせのやっかい

上のことをふまえておきながら、タイプ別の組み合わせの悲喜劇をいくつか見ていく。

◆奉仕タイプと利得タイプ ~ウマが合うが破局の芽も

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<1.奉仕>タイプは、ニーズを感知して相手に与えるのが得意だ。与えるものは、心づかい、精神的支援、労力や金品まで含む。物質的な見返りは必ずしも求めず、「喜ぶ顔が見たい」「感謝の声を聞きたい」といった志向が強いのがこのタイプの平均像だ。

<7.利得>タイプは与えられるものを享受し、また上手に与えられるように画策する。周囲から最大限の支援を引き出すために、ニーズをアピールしたり憐憫の情に訴えたりする。たとえ表面的にせよ感謝や喜びを口にしてうまく立ち回る者もこのタイプにはいる。一方でそこまで世知にたけていない者は、与えられる一方で済ませてしまう。

両者は対人志向の円環上では対極位置の関係だ。奉仕タイプがつぎつぎと支援を繰り出すと、利得タイプは貪欲に享受する。この関係は案外、長続きすることがある。しかし、あまりに見返りが少なく片務的な関係になっているときは別だ。奉仕タイプが、相手の表面だけの感謝から不実さを感知したときなど、破局の芽はそこかしこにある。

★組み合わせの悲喜劇で多くの文学作品が読み解けるほど、対人志向のずれは人生への影響が大きい。この項、次回に続く。

(あもうりんぺい)

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人はなぜ集うのか1-対人志向の円環

■なぜうまくいかないのか

職場や友達グループの人間関係は多くの人を悩ませ、時間の浪費やストレスを強いるものだ。心を病んだり、自殺や殺傷事件といった惨劇を招いてしまうことさえある。

被害者の側から語られることが多いが、それならば加害者もいるのか。「加害者」はそんなに悪い人たちで、そんなに職場ごとに存在するのか。

こう考えたほうが自然かもしれない。人それぞれが持っている心の方向性が違う。すると人の組み合わせによって「合う・合わない」が出てしまう。組み合わせしだいで、人は被害者にも加害者にもなる。そう考えれば解決の糸口も探れるというものだ。

人は人と関係する中で「求めて得たいもの」がある。それを対人志向と呼んでおこう。会社などの組織や趣味サークル、友人関係など、集団の性格によって見かけは違うが、対人志向の本質は共通するものとして読み解く。

■華やかなパーティの舞台裏

とあるパーティ会場に潜りこみ、そこに集う人たちの胸中を垣間見ることにしよう。

1.「ためになることをしてあげて、相手の喜ぶ顔がうれしい」(奉仕)

2.「環境問題の材料を仕入れてきたから、議論していい結論を出そう」(共創)

3.「これはライバルチームを打倒するための決起集会だ」(共闘)

4.「知識を見せつけて彼を負かしてやるぞ」(闘争)

5.「ひどい言葉を浴びせたときの相手の表情が楽しい」(嗜虐)

6.「平和な表面をつくろいながら、相手をだまして奪い取ってやるのさ」(略奪)

7.「あの人は顔が広いので、仕事を紹介してもらいたいな」(利得)

8.「気持ちよくほめられたいので、服装も話題もめいっぱい準備してきました」(承認欲)

9.「この集団がなくなると、自分も消えてしまいそうな気がして」(依存)

10.「感覚が合うのか、二人でいつも盛り上がっています。『それ、あるあるよね』といった感じ」(共感)

11.「いろいろな人がいるのがうれしいし、自分と違えば違うほど敬意をもって認めたくなる」(寛容)

0.「損得ぬきの好意と好感に満たされている」(友愛)

■対人志向の円環が語る

上で見たさまざまな胸中は、下図のように円環上に配置することができる。これは色彩学でいう「色相環」と似通った以下の特質を持つ。

◇隣り合った要素同士は近縁性があり、順にたどることですこしずつ性質が遷移する。
◇円環をひとめぐりすると元の要素に戻る。
◇対称の位置にある要素同士は、ある意味で対照性がきわだっている。

対人志向の円環 12の志向を色相環上に配置
図: 対人志向の円環

12種の対人志向を定義づける。(組織の課題なので、恋愛・性愛は別軸として省いている。)

1.奉仕
相手に尽くし、または集団の利益を図ることに価値を見出す心理。親は子に対し無償の奉仕心を抱くものだが、対象を他人にまで広げて考えるとわかりやすい。人は多分にこの傾向性を持っているものの、現代社会においては淘汰されやすいので、その感情を抑圧していることが多い。

2.共創
ひとつの価値を相手と共に創りあげようとする志向。知力が優れた者にこの傾向が強く、多くの場合、自分のオリジナルな業績を大切にする心理も併せ持つ。

3.共闘
共通の攻撃対象を持ち、共同で目的を達成する心の動き。結束や求心性の原動力になる。会社や団体競技などの組織運営に活かすべきだが、その一方で、戦(いくさ)に駆り立てる感情もこれと同じ原点を持つ。

4.闘争
目の前の相手よりも能力やポジションで上に立ちたい気持ち。
これが健全に働けば、よきライバル心がおたがいを高め、組織にも好影響がある。だがいたずらな攻撃性が全面に出ると、自慢話に終始したり、目の前の相手を罵倒したりと、大きく和を乱すことにもなりかねない。自己の優位性をそこまで貪欲に確認したがるというその裏には、抜きがたい劣等意識が隠されていることが多い。

5.嗜虐
相手に残忍な仕打ちをすることで快感を得る。言葉や感情面の圧迫も、直接の身体的な攻撃も含む。

6.略奪
財物や感情的満足などを奪い取る。財物とは金銭・物品・情報のこと。
「意地悪」は、≪嗜虐≫のカテゴリに入るとともに、相手を犠牲にして自己の利益(感情的満足、優位性、経済利益)を得るという意味で略奪カテゴリにもまたがる。この場合の経済利益とは、職場で人を陥れることで相対的に自分のポジションを上げ、出世に結び付けるなどのこと。

7.利得
相手の持つ地位や財力を頼って、財物(金銭・物品・情報)・口きき・人脈・利権配分などの経済的利益を期待する姿勢。

8.承認欲
他人からの賞賛を求める。ほめられたい、尊重されたい。自尊や劣等の複合的な感情を収めるために他者評価を望む気持ち。悪評を避ける防衛的な姿勢もここに含む。

9.依存
対人関係や集団への帰属が、自分の存在を証明する手段(アイデンティティ)になっている。依存する対象が一人の人の場合、機嫌をうかがったり自分の行動を同化させようとする。相手が集団の場合は、それを愛するあまり、しばしば組織防衛に走る。

10.共感
共通の立場や体験、感情や価値観を基に、互いの存在を尊重し合う姿勢。この方向性が高まり純化していくと、立場の違いを乗り越えて普遍的な共生意識にまで至る。別稿でも議論するが、社会に生きるために、また社会を生かすために、切り札となるのがこの共感の力だ。

11.寛容
他人を認め、許す心の傾向。「あきらめ」や「忍従」とは無縁、あるいは正反対だ。本人の自信が高まるにつれ、寛容の対象は他人の能力や嗜好・思想・存在自体などに広がっていく。

0.友愛
無差別な肯定と包摂的な愛情。これは人の行動や思いのあちこちに顔を出す普遍的なものだ。しかし無差別さと包摂の度が進んでいくと次第に生きにくさが増してきて、「1.奉仕」「11.寛容」よりもさらに抑圧される傾向が出てくる。

◆「対人志向の円環」を使って、次回からは対人志向の組み合わせと、個人や組織での活かし方を検討する。

(あもうりんぺい)

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