女性社員に指示を与えている経営者

敏腕社長の厚生リスク、または情けはだれのため(1)

■敏腕社長の判断

A社は創業2年目の小規模企業だ。商品を企画し、海外で委託生産して販売している。まだ知名度はないが、営業は順調だ。

A社のある商品で、安全性に不安があることが判明した。利用者の手を傷つけてしまう恐れがある。商品を改良して安全にするには、対策費として800万円ほどかかる見込みだ。

オーナー社長は「安全対策せず商品を出したらどうなる?」と検討を指示した。「クレーム対応として、ケガの治療費なども含めて300万円」と営業部が試算した。社長はすぐ判断した。「よし、安全対策なしで行こう」

■なにとなにを秤にかけるのか

リスク(事故のときの対応)は300万円だ。それに対応したリターン(コスト削減)は800万円になる。リスクとリターンを秤にかけたら、リターンのほうが大きい。ある意味で当然の判断かもしれない。

だがこれがほんとうに最善の策だったのか。その後2年間でA社は消滅してしまったから、確かめようがない。社長は多額の借金をかかえ、行方をくらましているとのことだ。

A社の策がまずかったとすれば、それはコストと顧客の安全をそのまま秤にかけてしまったことだ。いったん傷つけてしまった身体は、治療費を払ったからといってチャラにはならない。

■結局は自分のためなのか

さてここからの流れはすこし複雑だ。普通ならA社社長の判断はこう批判される。「数字の上では得していても、会社の評判が悪くなるだろう。訴訟だって起こされるかもしれない。長い目で見れば得しないよ」

これをよく見ると、危険な商品の発売は「お客さまの身体が傷つくからマズイ」ではなく「ブランド毀損や係争で当社が損するからマズイ」という論理にすりかわっている。結局は自分のためだ。

■ことわざが教えること

同じような構造は「情けは人のためならず」ということわざにもある。

世間ではよく解釈問題として語られる。
[誤解]「情けをかける(救援する)ことは相手のためにならない」
[正解1]「情けをかけると、結局は利得として自分に戻ってくる」

この正解のようでないとね、以上終わり。と、普通はなる。
だかここでは[正解1]に潜んだワナの話をする。

最後には自分のほうが大事、自分が得すればいい、という結論だとしたら、これは危険商品のときの論理すりかえ問題と同じになってしまう。

ことわざの場合はしかし、
[正解2]「情けをかけると、相手が助かる。それが最高にいいことなのだが、それだけではない。ついでに自分もうれしいし、あとあと得することになるかもしれないんだよ」
といった長めの解釈文が的を射ているかもしれず、それはそれでいい。

それでは[正解1]のほうはどうか。これも正解なのか。
次号へ。

(あもうりんぺい)

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