夜の商店

とある商店のブランド戦略

「都亜留商店って、ほんとに親切よね」
「おやじさんだけじゃなくて、全員が親切なのよ」
「親切、ってことばを聞くと、まずあのお店がぱっと浮かんでくるの」

時は流れる〜

「ここんとこ都亜留、都亜留って、うるさいわね」
「駅前にでっかい看板なんか立てちゃって」
「この町を代表するブランド、なんて書いてあるよ」

「でも都亜留商店って、親切じゃなくなっちゃった」
「先代が引退してから、しばらくは良かったのよ」
「人が入れ替わってくると、だんだん親切じゃなくなって…」
「いまではぜんぜん」

「親切だから、みんなひいきにしていたのに」
「親切がブランドだったのに、いまじゃ空っぽ」
「品物もよくないし、値段も上がっているし」
「つまらないから足が向かなくなっちゃったわ」

都亜留商店のような例はよく目にする。

なにがよかったのか、いけなかったのか。店の人たちに聞いてみよう。
まずは他界した先代を、冥界から引っ張ってくる。

「客がさ、喜んでくれる顔がなによりだった。
だからすこしでもいいものを、安くして勧めたもんだ。
おかげでみんなよく店に来てくれて、こっちもうれしいや。
なにブランド? 知らねえよ、なにそれカタカナ? わかる言葉で言ってくんねえ」

当代の店主。

「先代が作ってくれたブランドがなにより財産ですから、しっかり守ってまいりませんとね。
類似の商号やロゴなどには厳しく当たっております。専任の担当がいるぐらいでございますから。
顧客対応? はいそれはもう、お客さま本位でやらせていただいております。もちろんでございますよええ」

(天生 臨平)

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