廊下を歩く人々の足

無表情ですれちがう組織

ある組織を訪問して、断続的に半年ほど通っていたときの話だ。
廊下を歩いていると、とても気になることがあった。

■挨拶がない!

仮にA社としておこう。
上司部下らしき間だと、部下のほうが一礼または「おはようございます」と声をかけ、上司は無反応。同格の間だと、もっと気さくに声をかけあう。これはどこの組織でも見られることであり、A社でもそうだった。

問題はあまり知らない同士の間だ。大きな組織なので、廊下で会う人は知らないことのほうが多いはずだ。それでも、すれちがうときなどは普通なら軽く会釈するものだろう。

筆者が言うのは、すこし表情をゆるめて相手の目を見る、またはわずかにうなずく。そんな程度の会釈のことだ。だがそれがない。知らない社員同士なら「おつかれさまです!」という会社もあるのに。

■会釈してもなにも返ってこない

「来館者証」を胸につけていたからだろうか。でもそれなら、外来者には会釈どころか「こんにちは」という会社もあるのだ。さらに、すこし迷ったそぶりがあれば「ご用件はうけたまわっていますでしょうか」という声がけをしてもいい。これは不審者を見分けるためのセキュリティ対策でもある。

社員同士はどうするかと観察しても、おたがい無表情、というか非常に硬い表情ですれちがうばかりだ。まるで新宿の人ごみを歩いているみたいに。

■疑問だったので、A社の人たちに聞いてみた。

「廊下や、エレベータでのことなんですけどねえ…」
ずいぶん不しつけな質問をしたものだが、飲み会でリラックスしていた。

「会釈がない? うーん、そうですか」
意識していなかった様子だ。
「まあべつに社内で挨拶しても、売上が上がるわけでもないしね」
(そうだったか。筆者は「社内で挨拶すれば売上が上がる」と思うのだが。)

■呑み物が体内をかけめぐってきたころあいに

こんな発言が出てきた。
「それはあれだな、相手がだれだかわからない」
「そりゃそうでしょう。知らない同士でどうするかの話なんだから」
「いや、相手がだれだかわからないから、挨拶のしようがない」
「はあ?」
「役員の顔はだいたい知っているけど、知らない人もいる。ぞんざいに挨拶なんかできない。出入り業者や平社員のこともある。あんまりていねいにするとバカを見る」
「だから、挨拶できない?」
「そう。あんまり考えてもみなかったけど、きっとそんな感じだな」

■「なるほどねえ。そんな感じだよなあ」

と賛同する人も出てきたりして、これはA社を支配する空気のようなものらしかった。知らない役員もいるし、出入り業者もいるなら、だれにでもていねいに挨拶しておけばよさそうなものだ。だがそういう発想ではないらしい。

筆者は納得していなかった。それからもずっと、当たり前のように「すれちがいの会釈」を続けていた。そのせいかどうかは知らないが、A社に通った半年間の終わりのころには、すこしずつ「すれちがいの会釈をする、会釈を返す」人が出てきていた。

あれからすこし時間がたっている。A社の顧客対応や業績では、あまりいい噂はなかった。これからどうなるか気になっているところだ。

(天生臨平)

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