「都亜留商店って、ほんとに親切よね」
「おやじさんだけじゃなくて、全員が親切なのよ」
「親切、ってことばを聞くと、まずあのお店がぱっと浮かんでくるの」
時は流れる〜
「ここんとこ都亜留、都亜留って、うるさいわね」
「駅前にでっかい看板なんか立てちゃって」
「この町を代表するブランド、なんて書いてあるよ」
「でも都亜留商店って、親切じゃなくなっちゃった」
「先代が引退してから、しばらくは良かったのよ」
「人が入れ替わってくると、だんだん親切じゃなくなって…」
「いまではぜんぜん」
「親切だから、みんなひいきにしていたのに」
「親切がブランドだったのに、いまじゃ空っぽ」
「品物もよくないし、値段も上がっているし」
「つまらないから足が向かなくなっちゃったわ」
◆
都亜留商店のような例はよく目にする。
なにがよかったのか、いけなかったのか。店の人たちに聞いてみよう。
まずは他界した先代を、冥界から引っ張ってくる。
「客がさ、喜んでくれる顔がなによりだった。
だからすこしでもいいものを、安くして勧めたもんだ。
おかげでみんなよく店に来てくれて、こっちもうれしいや。
なにブランド? 知らねえよ、なにそれカタカナ? わかる言葉で言ってくんねえ」
当代の店主。
「先代が作ってくれたブランドがなにより財産ですから、しっかり守ってまいりませんとね。
類似の商号やロゴなどには厳しく当たっております。専任の担当がいるぐらいでございますから。
顧客対応? はいそれはもう、お客さま本位でやらせていただいております。もちろんでございますよええ」
(天生 臨平)