人はなぜ集うのか7-個人を伸ばす

人間関係で悩むのは当たり前。我欲が張っているのもまた当然。一歩先へ行くために、他人の見方を受け入れて自分と向き合う。

「人はなぜ集うのか」連載第1回はこちら

■悩む必要も、傷つく必要もない

人間関係で傷ついているときに、できるだけ客観的な実態を知ることは、それだけで大きな救いになる。とくに《対人志向の円環》の上側半分、「調和型」の傾向が強い者にとってそれがいえる。人間関係のさまざまな問題は、対人志向の違うタイプ同士のぶつかりあいが原因に過ぎないとわかったとき、以下のような認識が引き出されてくる。

◆自分を責める気持ちから解放される
人間関係のあつれきは自分のせいではないと確認する。一般に誠実で善良な者ほど、自責の念が強い。傲慢な者は他人に責任転嫁する。ほんとうは逆であってほしいのに。
ここでは自責を他責に転換することで肩の荷を下ろし、さらにこの事態に向き合うための心の余裕を生む。

◆相手を許すことができる
一方的に相手が悪いのではなくて、自分と相手の相性によって構造的な問題を引き起こしただけだと認識する。相手を許す気持ちは、本人にも精神の安定を導く。

◆理不尽が、それほどつらくなくなる
「理不尽感(「なぜなんだ、ひどいではないか」という思い)」自体が心にとっては大きな外傷をもたらす。それを理不尽ではなく、理解できる普通のことに置き換えることで神経が静まる。

◆的確な対応ができるようになる
自分と他人の関係を、本連載で述べた円環のような図式を使って客観的に捉えるようになると、行動が変わってくる。人から侵攻されたり、一見理不尽な行為を受けたりしたときに、冷静に状況判断して対処できる力がつく。

リーダーは個人に現状をしっかりつかむよう促し、上のような結果を導くべきだ。それが個人の癒しを生み、ひいては組織を力づよく蘇生させることになる。

■自分が我欲型と判定されたら

人間関係で傷つく側へのケアはわかった。では傷つける側は野放しでいいのか。

いままでの議論からわかるように、筆者は対人志向の円環の下半分、我欲型の属性を「それもひとつの個性」「使いこなせばいい」などとは評価していない。組織にとっては、なんらかの手当てが必要な人たちと見ている。

「6-職場の空気を清浄にする」で述べた相互評価などで、あなたが我欲型の強い属性だと判定されてしまったとする。そのときどうするか。

しょげ返ったり居直ったりする必要はない。むしろ自己啓発のチャンス、大幅なパフォーマンスアップの入り口に立ったと捉えるほうがいい。ではどうやって啓発するのか。

■自己認識と掘り起こし作業で伸びしろをつかむ

冒頭に述べたのと同じように、ここでも評価と正面から向き合い、「自分はその類型だ」と認識することがとても大切になる。我欲型の傾向が鮮明なメンバーには、まずはしっかりした自己認識を図ってもらおう。

そのあとで、目立たなかった属性の掘り起こしに入る。ひとりの人はもともと《対人志向の円環》のうち多くの、またはすべての要素を持っている。それを引き出す作業だ。

具体的には、「1-対人志向の円環」の定義に戻って、ひとつずつ自問自答する。このとき、指導者が介助することも有効な方法だ。

円環の12の要素に対応した12項目のリストを用意し、そこに自問自答の結果を記す。我欲型と認定された人であっても、過去の自分の行動に照らしてひとつひとつ検討していけば、調和型の傾向もあちこちで見いだせるはずだ。

対人志向の円環12要素、自己コメントを含むリスト
対人志向の円環12要素リストと自問自答

■我欲と調和の折り合いをつける

12項目のリストには、「6-職場の空気を清浄にする」でおこなった自己評価や他己評価の内容も記すが、それは参考情報に過ぎない。大切なのは、さっき拾い出した目立たない傾向や調和型の志向のほうだ。

図では、自己評価(点数)→他己評価(点数)→コメント(自己、上司)と順に進んだことを意識してほしい。他己評価を受けた結果がコメントに集約されている。

これからはなにか行動する折りにリストを思い出し、また参照し、「調和型の自分ならどう反応するだろうか」という配慮を欠かさずするといい。なぜならば、人は多くの志向を持っていながら、それをつい忘れがちだからだ。たとえば利得志向で頭がいっぱいになりながらも、奉仕の心を(持ちながら)忘れている。それを意識に持ち上げる効果がある。

調和型の自分が我欲型の自分をコントロールする。我欲型の傾向は持ったままでいいから、調和型の志向でそれと折り合いをつける、ということだ。こうすることで、自分が持つさまざまの傾向を牽制し、バランスをとることができる

いま述べたことは、我欲型と認定された人だけの話ではない。初期の分類が友愛タイプだろうが奉仕タイプだろうが、正反対の属性も同時に持っているのであり、それを考えればすべての人にとってこの折り合いづけは大切なプロセスだ。

多様な対人志向を引き出すことで、個人の力の押し上げを図った。さらに組織の力も伸ばすには。次回へ

(あもうりんぺい)

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