創造的なんだけど

研究者「先生、私の研究、続けてもいいんですよね」

先生「それが難しくなってきた。上の人たちがストップをかけているんだ」

研「なぜですか。私はこの研究で、病気の人を助けたいんです」

先「いいかヤスコくん。自分の力を過信してはいけない。たしかに日本の研究者は優秀だ。だがそれはノーベル賞に近いような超一流の人たちであって、数はひと握りなんだ。私たち中堅の能力は、実は低い」

研「え、どうしてですか」

先「一流の研究者には、国によらず共通性がある。ずばぬけた創造性と生真面目さが一緒にあるところだ。ところが中堅になると国の違いがある。欧米の中堅は、創造的だけれども、いい加減な人が多い。私たちは、創造性がなくて生真面目だ」

研「私も、ですか」

先「ああ。日本人だって創造的なんだけど、それが発揮できていない。無理もないだろう。教科書に書いてあることが正しくて、それを憶えなさい、と言われ続けてきたんだ。議論したり、自分で考え抜いたりといった教育を受けてきた人たちとは違う」

研「海外の研究者って、とんでもない発想を平気で論文にしたりしますよね。実証なんてほとんど抜きで。そのへん日本だと、まず教授陣が硬い…」

先「日本では正確さにこだわるから、ユニークな研究は査読で落とされる。世の中にないものを創り出そうとしているのに、前例主義みたいな物差しを当てられてしまう。私たち中堅に、創造的な研究ができるなんて思わないことだ。そのかわり、給料をもらって目立たず生きていくことができる。恵まれた立場を大切にしないとな」

研「でも先生。私はどうしても病気の人の役に立ちたいんです。もうすぐ、研究が完成するんですよ」

先「ヤスコくん、はっきり言って君の研究手法はかなりズサンだ。大きいことを任せるには心もとない」

研「それは認めます。まだ勉強中ですし」

先「もうひとつ言っておこう。研究成果があまり役に立ちすぎるのも良くない。どこかから圧力がかかってくることがある。病気がなかなか治らないから、それで得する人たちもいるんだよ」

研「なんのお話ですか。まったく意味がわかりません」

先「言っても無駄なようだな。どうしても考えを変えないなら、ひとつ方法がある」

研「なんでしょう」

先「私たちの研究所ではいま、文科省の予算を取るために、すこし注目を浴びたいと思っている。客寄せパンダみたいな研究が必要なんだ。君の研究をそれにあてるといえば、上のほうも納得するかもしれない。見たところ顔もパンダに似ているしな」

研「よくわからないけど、それでやらせてください」

先「ああ。だがしばらくは、はっきりした成果は出すな。研究の世界では注目される必要があるが、世間一般では目立ちすぎるな。暴走してはいけない。わかったね」

研「わか…りました。暴走…ですか」

(この物語はフィクションである)

(あもうりんぺい)