人はなぜ集うのか3-組み合わせが生む悲劇

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「人はなぜ集うのか1-対人志向の円環」
「人はなぜ集うのか2-対人志向のタイプ分け」

対人志向のタイプ分けの話。前回に続いて、これはちょっとイカンと思われる組み合わせの悲劇を考える。

◆共創タイプと闘争タイプ ~創造ができない

<2.共創タイプ>は人と共同してひとつの価値を作り上げようとする。人の資質は多様であるべきと考え、人と交流すれば相互に触発があると信じている。<4.闘争タイプ>は相手を屈服させることで自分の優位を確認する。手段は問わない。

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対人志向の円環 – 共創と闘争

仕事でなにかプロジェクトを組むとする。メンバーはそれぞれの強みを活かしつつ一丸になって目標に向かう。共創タイプにとっては燃える状況だ。

メンバーに闘争タイプがいると話が違ってくる。たとえば共創タイプが提示した企画や素案に対して闘争タイプが文句をつける。内容を切磋琢磨するためならいいのだが、闘争タイプは「勝つことが目的」だからそうではない。さっきまで自分が言っていたことと正反対の主張でも、議論で勝つためには平気でする。

共創タイプはメンバーの多様性を活かそうとする。各人が自分の感性や専門的能力を動員し、目標に向かってコンテンツを積み重ねていく。共創タイプの「議論」は、内容を叩いてどんどんよいものにしていくのだが、闘争タイプがいるとその向上サイクルがさっぱり働かず、叩き合いのまま企画自体の品質は低迷していく。

◆共感タイプと闘争タイプ ~よくある困惑すべき事態

円環上は対極の位置にある。<10.共感タイプ>は共通の感性や経験を見つけて、たがいを尊重する。<4.闘争タイプ>は前項に続いての登場だ。これは人数割合として多いだけに、組織への影響も大きくなる。

共感、闘争以外をグレイアウトした対人志向の円環図
対人志向の円環 – 共感と闘争

共感タイプは、さまざまな感性的経験を語る。「こんな映画見たよ。あそこが良かったなあ」「あの店、おいしかった」

闘争タイプは勝つことが会話の目的だから、難癖をつけようとする。「あの映画はダメだよ、なぜなら…」「あのレストラン、悪いうわさがあるよ、それは…」知識でも優っていることを強調するためにウンチクつきだ。勝つためにはハッタリや知ったかぶりも自在に繰り出す。

共感タイプは、すべてに同意を求めるわけではなく、感性のふれあいがほしい。そのうえで「いや自分はこうだった」と違いが出るならばそれでいい。場を共有し、なごやかに感性的体験を述べあったことで共感を持てるのだ。

闘争タイプは、自慢や相手への非難を挟みながら自分の優位を確保する。共感タイプとの組み合わせでは、相手が不戦主義なので、一方的に叩きのめして終わりになる。あとに残るのは不信と落胆。とくに共感タイプにとっては理解できない理不尽な仕打ちに映る。

職場でも友だち関係でも、この組み合わせはよくあるだけに、くりかえされる悲劇の総量として甚大なものになる。

◇闘争・共感の組み合わせにはこんな面も

この組み合わせは恋愛関係においても発生しがちだ。間合いを詰める途中や熱がこもっている間は、おたがい存分にやさしく振る舞うからいい。粗熱が薄れて、そろそろ密着した個人同士として行動するあたりから、この悲劇が顔を出すことがある。

ウンチクをたれ、力を示し、なにかと優位に立とうとする男性。二人が同じ方を向きながら手をつないでいたい女性。たがいの向きの違いに気づかないと、心の溝が深まるばかりになる。(男性、女性と言ったのは、くりかえしになるけれど傾向性を述べたまでだ。本来は多様だろう。)

心理学でこんな実験結果があるという。男の子だけのグループ、女の子だけのグループを作って、それぞれに同じ作業をさせる。すると男子は「対立」を基調とした動きをする。「いやそうじゃないんだよ、こうなんだ。」女子は「協調」を軸に行動する。「こうなのよね、そうよね。」ここでいう「対立」と「協調」は、対人志向の<闘争>と<共感>の関係に似通っている。

◆友愛タイプと略奪タイプ ~きわだった二人

<0.友愛>タイプは社会の制約の中で善行を模索する。人に接するときは善意を信じ、ともに栄えるように心を砕く。<6.略奪>タイプは人の持てるあらゆる資産を収奪し、相手の好意さえも利用しようと策をめぐらせる。

友愛、略奪以外をグレイアウトした対人志向の円環図
対人志向の円環 – 友愛と略奪

この両者のように、きわだった傾向性を持つ者は、長年暮らすうちにみずからその本質を覆い隠すようになることが多い。素のままの人格をさらけ出すと、とかく生きにくくなるからだ。

友愛タイプは、むやみにつけこまれることがないように防備を固めるし、気づかないうちに自身の友愛傾向を抑圧することもある。略奪タイプのうち社会的に破たんなく暮らす者は、その本質を隠蔽するためにことさらに紳士然とふるまい、獲物に近づく手段としての巧妙な擬態を身につける。

友愛タイプの慈悲心につけこんで略奪タイプがむさぼりつくすという構図が想定され、実際それも多いが、悲劇的すぎるから描写しない。また必ずそうなるわけではない。

友愛タイプがしっかりした主体性と能力を備えていれば、略奪タイプの侵攻を正面から撃退することも考えられる。友愛タイプ本来の包容力を発揮して略奪タイプに気づきを促し、心の救済にまで持っていくこともある。

両者の力関係やポジションによって、起きてくる事態はさまざまだ。職場などの組織で略奪タイプが上に立ったときには、配下の者の心理的な負担や労働負荷が大きく、深刻な危機が待っている。次回でも議論するが、人事においては執務能力や表面的なマネジメント能力だけではなく、個人ごとの対人志向を見極めておく必要がある。

(あもうりんぺい)

□連載目次□

人はなぜ集うのか2-対人志向のタイプ分け

■対人志向の円環をながめておく

円環の構造をさらに確認しよう。組織での活かし方を効果的に検討する手前で。
前回で述べた12種の対人志向の定義づけも参照してから見てほしい。

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対人志向の円環 領域ごとの属性

◆領域ごとに色がある

円環で上側の領域10~2<共感、寛容、友愛、奉仕、共創>は共同的で調和的な価値を追求している。下側4~8<闘争、嗜虐、略奪、利得、承認欲>は利己的・排他的な価値追求だ。

上下の中間領域にある<3.共闘>と<9.依存>には、上下にまたがる属性がある。<共闘>は同じ集団内では強固に共同的だが、共通の「敵」に向けて排他的だ。<依存>は集団に対して強く調和しようとするが、共通利益への志向と能動性が薄く、孤立した利己心を併せ持つ。

また中心線を含む右側の領域0~6<友愛、奉仕、共創、共闘、闘争、嗜虐、略奪>は価値追求の途中でなんらかの能動を伴うことが基本だ。対応して左側7~11<利得、承認欲、依存、共感、寛容>は受け身的になるか、または自分が行動した結果が相手に届き、その反応が返ってくるのを待つという性質がある。

左から上方にかけての9~11<依存、共感、寛容>は女性の中で比重が高い。右から下方にかけての3~5<共闘、闘争、嗜虐>は男性に色濃い。(平均的な傾向性をいうのであり、性差固定を意図していない。)

◆対極の位置にあるものは対照的

円環上で中心を挟んで点対称の位置にあるふたつの要素は、なんらかの対照性を持つ。たとえば:

<0.友愛>と<6.略奪>は、前者が無差別な愛情、後者は破壊的な欲得を特徴として、それぞれ円環の極北と極南の位置を占める。

<5.嗜虐>が相手の尊厳を崩しても意を介さず、むしろそのことに意欲を燃やすのに対し、<11.寛容>は自身への被害さえも受容し相手を尊重する。

◆隣り同士は似ている

隣り合った要素には近縁性があり、順にたどることですこしずつ性質が遷移する。いくつか例を挙げると:

<2.共創>と<3.共闘>は、ともに複数の者が一緒に価値追求をする。けれども<共創>が創造的な価値を対象にするのに対して、<共闘>は外部に敵を作って攻撃の要素が加わる。

<4.闘争>では相手を屈服させて自分の値打ちを確認するが、<5.嗜虐>になると、それに加えて相手を傷つけることが快感につながっていく。

<9.依存>は受け身の姿勢で集団と同化しようとする。それに対し<10.共感>ではそこから抜け出し、積極的な精神の交流で互いの存在を肯定するようになる。

このように、ひとつの起点から円環を順にたどり、ひとめぐりすると元の要素に戻る。

■どの志向が強いかでタイプ分けできる

一人の人は、対人志向として円環の12要素のひとつではなく複数、または全部を持っている。状況によっていろいろな志向が浮き出てきたり隠れたりするわけだ。

とはいえ、人によって特徴的な要素というものがある。ある人はだいたい共創的な姿勢だったり、別の人はいつも承認(業績や人格をほめること)を求めていたり、といったように。

この姿勢の違いは対人関係の場にとどまらない。≪なぜ生きるのか≫≪なぜ働くのか≫といった究極的な価値観や行動律の違いを背景に置いている。それは別に議論し、ここでは対人志向に限った話をする。

円環の12要素のうちどの志向が強いかによって、人を12のタイプに分けることができる。ただこれは生涯変わらないものでもなく、傾向がすこし強いか弱いかの相対的な判断だ。決めつけにならないように注意しておこう。

■組み合わせのやっかい

上のことをふまえておきながら、タイプ別の組み合わせの悲喜劇をいくつか見ていく。

◆奉仕タイプと利得タイプ ~ウマが合うが破局の芽も

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<1.奉仕>タイプは、ニーズを感知して相手に与えるのが得意だ。与えるものは、心づかい、精神的支援、労力や金品まで含む。物質的な見返りは必ずしも求めず、「喜ぶ顔が見たい」「感謝の声を聞きたい」といった志向が強いのがこのタイプの平均像だ。

<7.利得>タイプは与えられるものを享受し、また上手に与えられるように画策する。周囲から最大限の支援を引き出すために、ニーズをアピールしたり憐憫の情に訴えたりする。たとえ表面的にせよ感謝や喜びを口にしてうまく立ち回る者もこのタイプにはいる。一方でそこまで世知にたけていない者は、与えられる一方で済ませてしまう。

両者は対人志向の円環上では対極位置の関係だ。奉仕タイプがつぎつぎと支援を繰り出すと、利得タイプは貪欲に享受する。この関係は案外、長続きすることがある。しかし、あまりに見返りが少なく片務的な関係になっているときは別だ。奉仕タイプが、相手の表面だけの感謝から不実さを感知したときなど、破局の芽はそこかしこにある。

★組み合わせの悲喜劇で多くの文学作品が読み解けるほど、対人志向のずれは人生への影響が大きい。この項、次回に続く。

(あもうりんぺい)

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