会社は何でできているか

■どれがゾンビ企業か

ゾンビ企業はすみやかに退場すべきなのか。退場すべきはだれなのか。いま東芝とシャープが苦境にある。

この二社は、いまでもすばらしい会社だ。ここですばらしいというのは、技術者を始めとする従業員、蓄積された知見、伝統と企業風土、そして社会に根を下ろした関係性のことだ。技術や製品に接したことがある者にとっては自明ではないだろうか。たまたま劣悪な経営者を得たことが不幸だっただけだ。

中・短期的な経営失敗は、組織の構造や風土には致命的な影響を与えていない場合が多い。両社の場合がそうだ。救いようがある。

長期間にわたる経営の迷走が組織に浸透し、マインド自体にダメージを与えてしまった例はまた別にある。いま業績が上向きかけているソニーなどは、その意味でまだ根深い問題をかかえると筆者は見ている。

ゾンビ企業をあらためて定義すると、こうなる。
「外部環境の変化に適応した価値の提供ができず、内部改革で適応しようにも末端まで腐りきっているためにその力もなく、外部の不当な介入や惰性で延命している企業」

経営だけに問題があったという前提だ。完全な立証はできないので、以下、仮定のうえでの話としておこう。

東芝とシャープはゾンビ企業ではない。あえて例え話をすれば、「メドゥーサ企業」とでもいうか。もとは美女だったが、意識(=経営陣)が傲慢になったために、醜い姿に変えられてしまう。最後は頭部を切り落とされることになる。

■メドゥーサ企業、望ましいのは首のすげ替え

産業革新機構が両社の支援に乗り出している。この種の支援の常道は「本体を温存。経営陣は刷新」だが、筆者はこれを順当な策と見る。

支援がなく、会社が生き残らなかったらどうなるか。事業部単位で分断されて売却されるか、解散して一人ずつバラバラになるかだ。社会にとってかけがえのない存在である「人」は、いなくなるわけではないが、組織や伝統は残らない。

日本の労働市場は流動性が低く、倒産企業の社員は大幅なキャリアダウンを強いられる。その現状を動かぬ前提とするなら、ゾンビ退場論に早計にうなずくことはできない。なんの罪もない従業員個人の一生に大きく影を落としてしまうからだ。

(動かぬ前提を変えようという議論は歓迎だが、それは別の話だ。日本の産業界全体が構造的に腐朽化しており、総とっかえを要するところもあるが、いまはそれも別の話だ。)

環境に適応できない存在は、すみやかに退場すべきだと筆者も考える。だがその退場すべき主体は会社本体ではない。会社は社会に根差した高度に社会的な生きものだから、殺して切り刻むより生かすことを考えたほうがみんなのためだ。すげ替えるべきは経営者のほうだ。だがその反省が足りずに無能な経営者が居座ってしまうことがよくある。

シャープや三洋電機をやめた技術者のうち、かなりの人数がアイリスオーヤマに入社した。これは技術者集団のほうを主体に考えると「経営陣のすげ替え」にあたる。

三洋電機の白物家電部門が中国ハイアールに売却されたのも同じだ。会社側から見たら「切り売りして換金した」になるが、内部の人間が見れば「経営の首がすげ替わった」になる。二事例どちらも、経営陣のスムーズな交代をもたらすという意味で好都合な形だ。

■解体、切り売りという損失

資本市場の国際化は好ましいことと筆者は考えている。日本企業による外国企業買収だけではない。海外からの出資による企業支配や不動産取得も増えて初めて、双方向で望ましい国際化になる。

ただし、日本の経済全体が手塩にかけて育んできた基幹技術をやすやすと、不当な安値で売り渡すのがいいかというと、それは違う話だ。

不当な安値というのには理由がある。

本来ポテンシャルの高い企業が、たまたま劣悪な経営によって大きく業績を落とす。資産価値でも株価時価でも将来キャッシュフローでも、あらゆる意味で内容にそぐわない低い価値に「外観上は」見えてしまう。これを買い叩くのはまさにお買い得というものだ。

そんなことをして次々、人を中心とする優良な資産を手放してしまって、国としていいのか。むしろ心ない経営者によって踏み散らかされた企業を手厚く保護し修復することが先ではないか。

ところでさっきハイアールへの三洋白物の売却は好ましいと言ったばかりではないのか。そう、このパターンの売却には正負両面があるということだ。従業員にとっては、よしあし両方だろう。国際社会全体の厚生にとっては、よいことだったかもしれない。国の経済として、手指の間から砂粒が落ちるような損失を続けているというだけの話だ。

会社は《末端の人と知見、伝統と風土、社会との関係性》でできている。日本ではとくにそうだ。(国によっては金主と経営者でできている。)

そのよき存在の息の根を止め、ときには切り刻むという、負の力を持つのが経営者だ。責任はそれぐらい重い。企業というよき存在を殺さず活かす経営者よ、出てきてほしい。

(あもうりんぺい)