人はなぜ集うのか6-職場の空気を清浄にする

あなたが職場のリーダー、またはメンバーだとして、こんな場面に遭遇することはないだろうか。

「ちょっと聞いてください。正直あの先輩って苦手なんです。チームを替えてもらえませんか」
「なにを言っているんだ。苦手とか好きとか言い出したらきりがないぞ。きみ一人のわがままでいちいちチームを動かすわけにはいかないんだよ。すこしがんばって耐えてみろ」

よくある状況だが、いままでこの連載を読まれていれば、こんな頭ごなしな対応で結局なにもしないのはおかしいと思うだろう。なにか打つ手があるはずだ。

人間関係で無駄なストレスをためず、よりよい集団生活を送りたいとは、だれでも思っていることだ。集団全体としても、雰囲気が殺伐としているか良好かで、目標に対するパフォーマンスは大きく違ってくる。

前回までの材料を基に具体的な対策を練ろう。職場を念頭に置くが、サークルや1対1の関係など、どの集団でも基本は同じだ。それはまず「知ること」から始まる。

■自分の対人志向を把握する

対人志向の言動は、無意識にしていたことが多かったのではないだろうか。ここではそれを意識の上に持ち上げる。

作業はまず自身の対人志向について、ふたつの方向から自己評価して結果を書き出す。

・どんなタイプでありたいか
・現実にどんなタイプと自己認識しているか

それぞれ、いくつでもいいから優先度順に書き出しておく。連載で述べた定義や解説を参照すれば、いくつか心当たりはあるはずだ。

その結果を基にするが、いまはまだ性急に自分を思う方向にコントロールする必要はない。静かに自己認識するだけで、連鎖的にいろいろなことが見えてきて、いままで問題だったことの相当数が解決に向かうことがある。さらに次のことをすると、より効果的だ。

■メンバーが相互に評価する

集団のメンバーが、たがいに「相手はなにタイプか」を評価する。実際はこんなやり方をする。

・各個人が、集団の全員について3個以内の範囲で相手のタイプを評価して書き出し、投票する。人数が多すぎず、それほど負担がなければ、「なぜそう評価するのか」を書き添える。

・投票は匿名方式。集計する人(リーダー)にも、だれがなにを投票したかがわからないようにする。あとで関係がぎくしゃくしてしまうことを避けるため。

・リーダーが集計し、結果はそれぞれの本人への評価だけを伝えて、他人への評価は伝えない。赤裸々な結果を集団全体に開示すると、それだけで傷つくことがあるからだ。

集団が好ましい信頼関係で結ばれていれば、結果を全体に開示するのもいい。だがそんな状態なら、そもそも人間関係で悩まなくてもよくて、こんな投票なんてする必要がない。まあ、遊びで「あの人はなにタイプ?」の投票ができるような集団が理想ではあるのだが。

自分に対する評価の集計を見ると、自然に自身の傾向性が把握できる。前項で書き出した自分自身にとっての認識を併せて、「自分のありたい姿」「自己認識」「他人による認識」を見比べるとギャップが鮮明化するだろう。

■リーダーが把握する

前項の相互評価は、リーダーが関与せず、純粋に本人だけに結果を渡す仕組みにすることもできる。だがここは情勢が許せば、リーダーが結果を把握して集団運営に活かすことが望ましい。ただし、リーダー側にはそれなりの覚悟とスキルが必要だ。

まず評価の結果を鵜呑みにすることは禁物だ。人は本来多様な傾向性を持っていて、その一部が表面に見えているにすぎない。時とともに行動が変化することもある。集団的に特定の者を陥れようという意図で投票する可能性もゼロではない。各個人を安易にレッテルづけしてしまうのが一番まずい。

ではどうするのか。以下の作業は、信頼できるし人格的にも高度なサブリーダーがいれば、相談しながら一緒に手掛けるほうがいい。

日ごろの観察を基にリーダー自身がくだした評価を軸にして、メンバー相互評価の結果と突き合わせる。自分による評価と食い違うときは、「なぜそう評価したか」の添え書きも参照しながら、見落としていた視点がないかを考えなおす。その結果によって相互評価の結果を採用したり、参考にとどめたりする。そうやって仕上げた一連の評価表は、個人への色眼鏡にするのではなく、以下のように使ってほしい。

■組み合わせの悲喜劇を調節する

「3-組み合わせが生む悲劇」で見たように、特定のタイプ同士の組み合わせが望ましくない結果を生むことがある。少人数のチームやペアで、それに陥っていないかを点検しよう。

「対人志向の円環」の下側領域を「我欲型」の属性と定義づけた(「5-光の領域と闇の領域」参照)。我欲型同士のペアや我欲型の優勢なチームが地獄図絵を展開していないか。そこに含まれる少数派の「調和型」の者が深刻な被害を受けていないかも見どころだ。

単にタイプの組み合わせが悪いというだけでなく、現実に軋轢を生んでいるか、その兆候が見られるかに着目する。冒頭に挙げたように、メンバーから直訴が飛び込んでくることもある。人の組み合わせの問題に該当するようであれば、メンバーの個人面談などを使って仮説検証する。その際、次回に述べるような個人へのケアや指導を併用することが望ましい。

人の組み合わせに問題があるとの結論が明白になったら、チーム再編などで穏やかな収拾を図ろう。併せて、全体がより相性のよい組み合わせ(「4-価値を高める組み合わせ」参照)にシフトするよう編成を整理する。

上のことは、組織の雰囲気が荒れている場合に浄化を図る措置として有効だ。改革の第一歩と位置づけることもできる。さらに個人へのケアを進め、集団の空気感だけでなくパフォーマンスまで向上させるにはどうするか。次回へ

(あもうりんぺい)

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