人はなぜ集うのか7-個人を伸ばす

人間関係で悩むのは当たり前。我欲が張っているのもまた当然。一歩先へ行くために、他人の見方を受け入れて自分と向き合う。

「人はなぜ集うのか」連載第1回はこちら

■悩む必要も、傷つく必要もない

人間関係で傷ついているときに、できるだけ客観的な実態を知ることは、それだけで大きな救いになる。とくに《対人志向の円環》の上側半分、「調和型」の傾向が強い者にとってそれがいえる。人間関係のさまざまな問題は、対人志向の違うタイプ同士のぶつかりあいが原因に過ぎないとわかったとき、以下のような認識が引き出されてくる。

◆自分を責める気持ちから解放される
人間関係のあつれきは自分のせいではないと確認する。一般に誠実で善良な者ほど、自責の念が強い。傲慢な者は他人に責任転嫁する。ほんとうは逆であってほしいのに。
ここでは自責を他責に転換することで肩の荷を下ろし、さらにこの事態に向き合うための心の余裕を生む。

◆相手を許すことができる
一方的に相手が悪いのではなくて、自分と相手の相性によって構造的な問題を引き起こしただけだと認識する。相手を許す気持ちは、本人にも精神の安定を導く。

◆理不尽が、それほどつらくなくなる
「理不尽感(「なぜなんだ、ひどいではないか」という思い)」自体が心にとっては大きな外傷をもたらす。それを理不尽ではなく、理解できる普通のことに置き換えることで神経が静まる。

◆的確な対応ができるようになる
自分と他人の関係を、本連載で述べた円環のような図式を使って客観的に捉えるようになると、行動が変わってくる。人から侵攻されたり、一見理不尽な行為を受けたりしたときに、冷静に状況判断して対処できる力がつく。

リーダーは個人に現状をしっかりつかむよう促し、上のような結果を導くべきだ。それが個人の癒しを生み、ひいては組織を力づよく蘇生させることになる。

■自分が我欲型と判定されたら

人間関係で傷つく側へのケアはわかった。では傷つける側は野放しでいいのか。

いままでの議論からわかるように、筆者は対人志向の円環の下半分、我欲型の属性を「それもひとつの個性」「使いこなせばいい」などとは評価していない。組織にとっては、なんらかの手当てが必要な人たちと見ている。

「6-職場の空気を清浄にする」で述べた相互評価などで、あなたが我欲型の強い属性だと判定されてしまったとする。そのときどうするか。

しょげ返ったり居直ったりする必要はない。むしろ自己啓発のチャンス、大幅なパフォーマンスアップの入り口に立ったと捉えるほうがいい。ではどうやって啓発するのか。

■自己認識と掘り起こし作業で伸びしろをつかむ

冒頭に述べたのと同じように、ここでも評価と正面から向き合い、「自分はその類型だ」と認識することがとても大切になる。我欲型の傾向が鮮明なメンバーには、まずはしっかりした自己認識を図ってもらおう。

そのあとで、目立たなかった属性の掘り起こしに入る。ひとりの人はもともと《対人志向の円環》のうち多くの、またはすべての要素を持っている。それを引き出す作業だ。

具体的には、「1-対人志向の円環」の定義に戻って、ひとつずつ自問自答する。このとき、指導者が介助することも有効な方法だ。

円環の12の要素に対応した12項目のリストを用意し、そこに自問自答の結果を記す。我欲型と認定された人であっても、過去の自分の行動に照らしてひとつひとつ検討していけば、調和型の傾向もあちこちで見いだせるはずだ。

対人志向の円環12要素、自己コメントを含むリスト
対人志向の円環12要素リストと自問自答

■我欲と調和の折り合いをつける

12項目のリストには、「6-職場の空気を清浄にする」でおこなった自己評価や他己評価の内容も記すが、それは参考情報に過ぎない。大切なのは、さっき拾い出した目立たない傾向や調和型の志向のほうだ。

図では、自己評価(点数)→他己評価(点数)→コメント(自己、上司)と順に進んだことを意識してほしい。他己評価を受けた結果がコメントに集約されている。

これからはなにか行動する折りにリストを思い出し、また参照し、「調和型の自分ならどう反応するだろうか」という配慮を欠かさずするといい。なぜならば、人は多くの志向を持っていながら、それをつい忘れがちだからだ。たとえば利得志向で頭がいっぱいになりながらも、奉仕の心を(持ちながら)忘れている。それを意識に持ち上げる効果がある。

調和型の自分が我欲型の自分をコントロールする。我欲型の傾向は持ったままでいいから、調和型の志向でそれと折り合いをつける、ということだ。こうすることで、自分が持つさまざまの傾向を牽制し、バランスをとることができる

いま述べたことは、我欲型と認定された人だけの話ではない。初期の分類が友愛タイプだろうが奉仕タイプだろうが、正反対の属性も同時に持っているのであり、それを考えればすべての人にとってこの折り合いづけは大切なプロセスだ。

多様な対人志向を引き出すことで、個人の力の押し上げを図った。さらに組織の力も伸ばすには。次回へ

(あもうりんぺい)

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人はなぜ集うのか6-職場の空気を清浄にする

あなたが職場のリーダー、またはメンバーだとして、こんな場面に遭遇することはないだろうか。

「ちょっと聞いてください。正直あの先輩って苦手なんです。チームを替えてもらえませんか」
「なにを言っているんだ。苦手とか好きとか言い出したらきりがないぞ。きみ一人のわがままでいちいちチームを動かすわけにはいかないんだよ。すこしがんばって耐えてみろ」

よくある状況だが、いままでこの連載を読まれていれば、こんな頭ごなしな対応で結局なにもしないのはおかしいと思うだろう。なにか打つ手があるはずだ。

人間関係で無駄なストレスをためず、よりよい集団生活を送りたいとは、だれでも思っていることだ。集団全体としても、雰囲気が殺伐としているか良好かで、目標に対するパフォーマンスは大きく違ってくる。

前回までの材料を基に具体的な対策を練ろう。職場を念頭に置くが、サークルや1対1の関係など、どの集団でも基本は同じだ。それはまず「知ること」から始まる。

■自分の対人志向を把握する

対人志向の言動は、無意識にしていたことが多かったのではないだろうか。ここではそれを意識の上に持ち上げる。

作業はまず自身の対人志向について、ふたつの方向から自己評価して結果を書き出す。

・どんなタイプでありたいか
・現実にどんなタイプと自己認識しているか

それぞれ、いくつでもいいから優先度順に書き出しておく。連載で述べた定義や解説を参照すれば、いくつか心当たりはあるはずだ。

その結果を基にするが、いまはまだ性急に自分を思う方向にコントロールする必要はない。静かに自己認識するだけで、連鎖的にいろいろなことが見えてきて、いままで問題だったことの相当数が解決に向かうことがある。さらに次のことをすると、より効果的だ。

■メンバーが相互に評価する

集団のメンバーが、たがいに「相手はなにタイプか」を評価する。実際はこんなやり方をする。

・各個人が、集団の全員について3個以内の範囲で相手のタイプを評価して書き出し、投票する。人数が多すぎず、それほど負担がなければ、「なぜそう評価するのか」を書き添える。

・投票は匿名方式。集計する人(リーダー)にも、だれがなにを投票したかがわからないようにする。あとで関係がぎくしゃくしてしまうことを避けるため。

・リーダーが集計し、結果はそれぞれの本人への評価だけを伝えて、他人への評価は伝えない。赤裸々な結果を集団全体に開示すると、それだけで傷つくことがあるからだ。

集団が好ましい信頼関係で結ばれていれば、結果を全体に開示するのもいい。だがそんな状態なら、そもそも人間関係で悩まなくてもよくて、こんな投票なんてする必要がない。まあ、遊びで「あの人はなにタイプ?」の投票ができるような集団が理想ではあるのだが。

自分に対する評価の集計を見ると、自然に自身の傾向性が把握できる。前項で書き出した自分自身にとっての認識を併せて、「自分のありたい姿」「自己認識」「他人による認識」を見比べるとギャップが鮮明化するだろう。

■リーダーが把握する

前項の相互評価は、リーダーが関与せず、純粋に本人だけに結果を渡す仕組みにすることもできる。だがここは情勢が許せば、リーダーが結果を把握して集団運営に活かすことが望ましい。ただし、リーダー側にはそれなりの覚悟とスキルが必要だ。

まず評価の結果を鵜呑みにすることは禁物だ。人は本来多様な傾向性を持っていて、その一部が表面に見えているにすぎない。時とともに行動が変化することもある。集団的に特定の者を陥れようという意図で投票する可能性もゼロではない。各個人を安易にレッテルづけしてしまうのが一番まずい。

ではどうするのか。以下の作業は、信頼できるし人格的にも高度なサブリーダーがいれば、相談しながら一緒に手掛けるほうがいい。

日ごろの観察を基にリーダー自身がくだした評価を軸にして、メンバー相互評価の結果と突き合わせる。自分による評価と食い違うときは、「なぜそう評価したか」の添え書きも参照しながら、見落としていた視点がないかを考えなおす。その結果によって相互評価の結果を採用したり、参考にとどめたりする。そうやって仕上げた一連の評価表は、個人への色眼鏡にするのではなく、以下のように使ってほしい。

■組み合わせの悲喜劇を調節する

「3-組み合わせが生む悲劇」で見たように、特定のタイプ同士の組み合わせが望ましくない結果を生むことがある。少人数のチームやペアで、それに陥っていないかを点検しよう。

「対人志向の円環」の下側領域を「我欲型」の属性と定義づけた(「5-光の領域と闇の領域」参照)。我欲型同士のペアや我欲型の優勢なチームが地獄図絵を展開していないか。そこに含まれる少数派の「調和型」の者が深刻な被害を受けていないかも見どころだ。

単にタイプの組み合わせが悪いというだけでなく、現実に軋轢を生んでいるか、その兆候が見られるかに着目する。冒頭に挙げたように、メンバーから直訴が飛び込んでくることもある。人の組み合わせの問題に該当するようであれば、メンバーの個人面談などを使って仮説検証する。その際、次回に述べるような個人へのケアや指導を併用することが望ましい。

人の組み合わせに問題があるとの結論が明白になったら、チーム再編などで穏やかな収拾を図ろう。併せて、全体がより相性のよい組み合わせ(「4-価値を高める組み合わせ」参照)にシフトするよう編成を整理する。

上のことは、組織の雰囲気が荒れている場合に浄化を図る措置として有効だ。改革の第一歩と位置づけることもできる。さらに個人へのケアを進め、集団の空気感だけでなくパフォーマンスまで向上させるにはどうするか。次回へ

(あもうりんぺい)

□連載目次□

人はなぜ集うのか5-光の領域と闇の領域

対人志向における悲喜劇の背景にはなにがあるのか。対策を練るための前段として、円環上の領域を使って総括する。

■調和と我欲の相克が悲劇のもと

第2回では、「対人志向の円環」の上側と下側それぞれの領域に特徴があることを述べた。上側は、10~2<共感、寛容、友愛、奉仕、共創>。下側は4~8<闘争、嗜虐、略奪、利得、承認欲>だ。間の<3.共闘><9.依存>は上下両方の性質を兼ねる。ここでは円環領域の上側をくくって調和型、下側を我欲型と呼んでおく。

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対人志向の円環 領域ごとの属性(第2回からアレンジして再掲)

第3回の悲劇的な組み合わせは、二人のうち一人が調和型、他方が我欲型に位置しているものだった。とくに<0.友愛>と<6.略奪>のように中心をはさんで対称の位置にある者同士だと、それが顕著に出てくる。

我欲型の者が調和型を支配し屈服させることはよくある。ただし、調和型が一方的に負けてばかりいるとは限らなくて、双方の実力や度量の差によって結果は違う。逆に調和型の者が相手を包容し善導することもある。

■似たもの同士ではどうなのか

では調和型同士や我欲型同士の組み合わせはどうか。これには二人とも<6.略奪>などといった、まったく同じタイプ同士も含む。

調和型は共同的・協調的な価値の追求がベースなので、第4回で検討したように、調和型同士だと人間関係は基本的にうまくいく。(ただし厚すぎる好意のうとましさや、善意のすれちがいからくる悲劇もなくはない。)我欲型同士だと利己的・排他的だから、とたんに難しくなる。

我欲型が集まると、嗜虐なり略奪なりの共同戦線を張ってアウトロー集団になり、自分たちの我欲をいっそう満たす(さらにまわりに迷惑をかける)ようなこともする。そうなってもならなくても、集団内部ではメンバー同士の血みどろの抗争の中で地獄図絵が展開することになる。

我欲型の勢力が多くを占めると、外に対してはアウトロー集団、内側では地獄図絵集団、という様相がかなりの確率で発生するということだ。

そこにこんどは少数の調和型のタイプが迷い込むと、さらに悲惨さは深まる。共同的・協調的な行動のよさが受け入れられず、集団の運営に役立つことなく、その理不尽にとまどうばかりになる。また集中的な略奪や虐待に遭って精神が痛む。人数に極端な差があると、少数派の調和型タイプが包容力で善導するなど、とても難しいことになる。

そうなっていないだろうか、読者の所属組織では。いやこれは案外よくあることなのだ。

対人志向の組み合わせによる悲喜劇は、ある程度は避けられない。では個人として、また集団を差配する指導者として、人間関係をいい方向に収めるために、どう対処したらいいのか。次回へ

(あもうりんぺい)

□連載目次□

人はなぜ集うのか4-価値を高める組み合わせ

★バックナンバー★
「人はなぜ集うのか1-対人志向の円環」
「人はなぜ集うのか2-対人志向のタイプ分け」
「人はなぜ集うのか3-組み合わせが生む悲劇」

対人関係の組み合わせは悲劇ばかりを生むのだろうか。そうではない。たがいに補い、価値を高めあうものもある。

◆共闘タイプと依存タイプ ~戦友として認めあう

※「相手」と言ったとき、一人の個人のことと、複数人からなる集団のことと両方の意味がある。対人志向を考えるとき、いつも両者を並行して視野に置く。

<3.共闘タイプ>と<9.依存タイプ>は、ともに相手への協調に大きな価値を置いている。共闘タイプが外の敵に向かって行動し、目的達成意欲が高いのに対して、依存タイプは相手との空間に内向して満足しようとする、という対照がある。両者は対人志向の円環上で対極の位置にある。

共闘タイプと依存タイプをハイライトした対人志向の円環
対人志向の円環 共闘タイプと依存タイプ

依存タイプは非行動的かというと、一概に言えない。その特徴の中で行動に焦点が当たっていないだけだ。相手に駆り立てられて行動する傾向は、依存性が高いゆえに大きい。

営業やエリア開拓、戦略的法務など、外部に明確なライバルや敵がいて、結束した戦闘行動を要求される集団を想定しておこう。

ここでは共闘タイプが主体として動くことがまずイメージできる。だが集団は同じ色の者だけで固まると、もろくなる。多様なタイプの混在が必要だ。その中でも忠実な戦闘員として、また結束の粘着剤として、依存タイプが占める役割は大きい。

共闘タイプと依存タイプが適度な割合で混成した集団は、高い戦闘力を持つ。個人対個人の関係でも、共闘タイプは相手を「実直な同志」として認め、依存タイプは相手を「頼りがいのある依存先」とみなして良好な関係を保つことができる。共闘タイプと依存タイプは良い相性で結ばれている。

◆共創タイプと寛容タイプ ~多様性とモチベーション

<2.共創タイプ>は集団でひとつの価値を創造することに意義を見出す。その過程で集団構成員の能力や感覚、価値観の多様性が確保されることが大切と考える。
<11.寛容タイプ>は、多様な人格の存在が好ましいという価値観を最優先する。

共創タイプと寛容タイプをハイライトした対人志向の円環
対人志向の円環 共創タイプと寛容タイプ

寛容タイプが執務能力と統率力を高めていくと、優秀な指導者に仕上がってくる。

指導者を成り立たせる資質はさまざまで、たとえば独断や強権を好む者も視野には入る。だが寛容タイプが持つ「多様性の尊重」は、集団運営においてきわめて威力を発揮する。それほど集団にとって多様性は欠くことのできない要素になる。構成員すべてを強く動機づけて活かすのは、型にはまった行動特性の強要ではなく、その反対の多様性の尊重だからだ。

寛容タイプ指導者の下に集結するメンバーは、共創タイプを重用するのが望ましい。共創タイプもまた多様性を認めながら他者の資質を活かし、みずからを活かすことを活動の基盤にするからだ。

「寛容タイプと共創タイプ」を、「集団の指導者とメンバー」として例示したが、それにとどまらない。逆に共創タイプ指導者と寛容タイプ構成員も成り立つし、両者の混在は集団にとって居心地の良さとモチベーション、そして競争力のすべてを押し上げることになる。研究開発や企画など創造性を要求する分野を始め、それ以外の集団全般について言えることだ。

◆共感タイプと承認欲タイプ ~称賛を通じたきずな

<8.承認欲タイプ>は、自分の業績や人格・能力・容姿など多方面で承認を求める。ここで承認とは肯定的評価のこと。ひかえめな認知・受容(知ること、とがめなく認めること)から高らかな称賛までレベルは幅広い。承認欲タイプの者は、自分がより高い承認を得ることを希求している。

<10.共感タイプ>は、相手と共通する体験や感性をみつけて一体感を楽しむ。そこには互いに対する尊敬と肯定、称賛が混ざる。

共感タイプと承認欲タイプをハイライトした対人志向の円環
対人志向の円環 共感タイプと承認欲タイプ

承認欲タイプの者に対しては、必要があればもちろんどんなタイプの者からでも承認を送ることができる。必要があればとは、たとえば部下に対する上司や、仲良くなりたい異性。だがそれが相手の心に響くかどうかは別問題だ。懐柔したい下心は容易に見抜かれるものだ。

共感タイプは承認欲タイプに心からなる承認を送ることができる。その内訳はふたつあって、ひとつは相手の属性や言動に対する共感に基づいている。これは相手が承認欲タイプに限らない。もうひとつは「承認欲タイプが承認を求めること」に対する共感。

人はだれでも認められたいし称賛されたい。対人志向の円環の12要素は、人が多かれ少なかれ持っている傾向性だが、とりわけ承認欲求はだれの心の中にも普遍的にある。現代社会においては突出的といってもいいほどある。これは共感タイプの者でも例外ではない。

共感タイプの「共感」には、「普遍的な共生意識」に至るより手前に、もっと低レベルな内訳として「相互に承認したい - 自分も承認されたい」心がある。承認欲タイプも、普通にバランスのとれた人格でいる限り、相手からの承認への反対給付として承認を返す準備がある。

共感タイプが承認欲タイプの欲求に触れたとき、「そうかほめてほしいんだね。存分にほめてあげよう。こちらにも承認が返ってくるだろうし、それでおたがいがハッピーになればいい」と共感的に反応するのは自然なことだ。

称賛されたい心と称賛したい心が一体になって、承認欲求タイプと共感タイプのきずなが強まる。

いままで見てきたことをふまえ、さらに組織に役立てることはできるのか。友人や上司部下などの1対1の関係への応用はどうか。次回へ。

(あもうりんぺい)

□連載目次□

人はなぜ集うのか2-対人志向のタイプ分け

■対人志向の円環をながめておく

円環の構造をさらに確認しよう。組織での活かし方を効果的に検討する手前で。
前回で述べた12種の対人志向の定義づけも参照してから見てほしい。

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対人志向の円環 領域ごとの属性

◆領域ごとに色がある

円環で上側の領域10~2<共感、寛容、友愛、奉仕、共創>は共同的で調和的な価値を追求している。下側4~8<闘争、嗜虐、略奪、利得、承認欲>は利己的・排他的な価値追求だ。

上下の中間領域にある<3.共闘>と<9.依存>には、上下にまたがる属性がある。<共闘>は同じ集団内では強固に共同的だが、共通の「敵」に向けて排他的だ。<依存>は集団に対して強く調和しようとするが、共通利益への志向と能動性が薄く、孤立した利己心を併せ持つ。

また中心線を含む右側の領域0~6<友愛、奉仕、共創、共闘、闘争、嗜虐、略奪>は価値追求の途中でなんらかの能動を伴うことが基本だ。対応して左側7~11<利得、承認欲、依存、共感、寛容>は受け身的になるか、または自分が行動した結果が相手に届き、その反応が返ってくるのを待つという性質がある。

左から上方にかけての9~11<依存、共感、寛容>は女性の中で比重が高い。右から下方にかけての3~5<共闘、闘争、嗜虐>は男性に色濃い。(平均的な傾向性をいうのであり、性差固定を意図していない。)

◆対極の位置にあるものは対照的

円環上で中心を挟んで点対称の位置にあるふたつの要素は、なんらかの対照性を持つ。たとえば:

<0.友愛>と<6.略奪>は、前者が無差別な愛情、後者は破壊的な欲得を特徴として、それぞれ円環の極北と極南の位置を占める。

<5.嗜虐>が相手の尊厳を崩しても意を介さず、むしろそのことに意欲を燃やすのに対し、<11.寛容>は自身への被害さえも受容し相手を尊重する。

◆隣り同士は似ている

隣り合った要素には近縁性があり、順にたどることですこしずつ性質が遷移する。いくつか例を挙げると:

<2.共創>と<3.共闘>は、ともに複数の者が一緒に価値追求をする。けれども<共創>が創造的な価値を対象にするのに対して、<共闘>は外部に敵を作って攻撃の要素が加わる。

<4.闘争>では相手を屈服させて自分の値打ちを確認するが、<5.嗜虐>になると、それに加えて相手を傷つけることが快感につながっていく。

<9.依存>は受け身の姿勢で集団と同化しようとする。それに対し<10.共感>ではそこから抜け出し、積極的な精神の交流で互いの存在を肯定するようになる。

このように、ひとつの起点から円環を順にたどり、ひとめぐりすると元の要素に戻る。

■どの志向が強いかでタイプ分けできる

一人の人は、対人志向として円環の12要素のひとつではなく複数、または全部を持っている。状況によっていろいろな志向が浮き出てきたり隠れたりするわけだ。

とはいえ、人によって特徴的な要素というものがある。ある人はだいたい共創的な姿勢だったり、別の人はいつも承認(業績や人格をほめること)を求めていたり、といったように。

この姿勢の違いは対人関係の場にとどまらない。≪なぜ生きるのか≫≪なぜ働くのか≫といった究極的な価値観や行動律の違いを背景に置いている。それは別に議論し、ここでは対人志向に限った話をする。

円環の12要素のうちどの志向が強いかによって、人を12のタイプに分けることができる。ただこれは生涯変わらないものでもなく、傾向がすこし強いか弱いかの相対的な判断だ。決めつけにならないように注意しておこう。

■組み合わせのやっかい

上のことをふまえておきながら、タイプ別の組み合わせの悲喜劇をいくつか見ていく。

◆奉仕タイプと利得タイプ ~ウマが合うが破局の芽も

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<1.奉仕>タイプは、ニーズを感知して相手に与えるのが得意だ。与えるものは、心づかい、精神的支援、労力や金品まで含む。物質的な見返りは必ずしも求めず、「喜ぶ顔が見たい」「感謝の声を聞きたい」といった志向が強いのがこのタイプの平均像だ。

<7.利得>タイプは与えられるものを享受し、また上手に与えられるように画策する。周囲から最大限の支援を引き出すために、ニーズをアピールしたり憐憫の情に訴えたりする。たとえ表面的にせよ感謝や喜びを口にしてうまく立ち回る者もこのタイプにはいる。一方でそこまで世知にたけていない者は、与えられる一方で済ませてしまう。

両者は対人志向の円環上では対極位置の関係だ。奉仕タイプがつぎつぎと支援を繰り出すと、利得タイプは貪欲に享受する。この関係は案外、長続きすることがある。しかし、あまりに見返りが少なく片務的な関係になっているときは別だ。奉仕タイプが、相手の表面だけの感謝から不実さを感知したときなど、破局の芽はそこかしこにある。

★組み合わせの悲喜劇で多くの文学作品が読み解けるほど、対人志向のずれは人生への影響が大きい。この項、次回に続く。

(あもうりんぺい)

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人はなぜ集うのか1-対人志向の円環

■なぜうまくいかないのか

職場や友達グループの人間関係は多くの人を悩ませ、時間の浪費やストレスを強いるものだ。心を病んだり、自殺や殺傷事件といった惨劇を招いてしまうことさえある。

被害者の側から語られることが多いが、それならば加害者もいるのか。「加害者」はそんなに悪い人たちで、そんなに職場ごとに存在するのか。

こう考えたほうが自然かもしれない。人それぞれが持っている心の方向性が違う。すると人の組み合わせによって「合う・合わない」が出てしまう。組み合わせしだいで、人は被害者にも加害者にもなる。そう考えれば解決の糸口も探れるというものだ。

人は人と関係する中で「求めて得たいもの」がある。それを対人志向と呼んでおこう。会社などの組織や趣味サークル、友人関係など、集団の性格によって見かけは違うが、対人志向の本質は共通するものとして読み解く。

■華やかなパーティの舞台裏

とあるパーティ会場に潜りこみ、そこに集う人たちの胸中を垣間見ることにしよう。

1.「ためになることをしてあげて、相手の喜ぶ顔がうれしい」(奉仕)

2.「環境問題の材料を仕入れてきたから、議論していい結論を出そう」(共創)

3.「これはライバルチームを打倒するための決起集会だ」(共闘)

4.「知識を見せつけて彼を負かしてやるぞ」(闘争)

5.「ひどい言葉を浴びせたときの相手の表情が楽しい」(嗜虐)

6.「平和な表面をつくろいながら、相手をだまして奪い取ってやるのさ」(略奪)

7.「あの人は顔が広いので、仕事を紹介してもらいたいな」(利得)

8.「気持ちよくほめられたいので、服装も話題もめいっぱい準備してきました」(承認欲)

9.「この集団がなくなると、自分も消えてしまいそうな気がして」(依存)

10.「感覚が合うのか、二人でいつも盛り上がっています。『それ、あるあるよね』といった感じ」(共感)

11.「いろいろな人がいるのがうれしいし、自分と違えば違うほど敬意をもって認めたくなる」(寛容)

0.「損得ぬきの好意と好感に満たされている」(友愛)

■対人志向の円環が語る

上で見たさまざまな胸中は、下図のように円環上に配置することができる。これは色彩学でいう「色相環」と似通った以下の特質を持つ。

◇隣り合った要素同士は近縁性があり、順にたどることですこしずつ性質が遷移する。
◇円環をひとめぐりすると元の要素に戻る。
◇対称の位置にある要素同士は、ある意味で対照性がきわだっている。

対人志向の円環 12の志向を色相環上に配置
図: 対人志向の円環

12種の対人志向を定義づける。(組織の課題なので、恋愛・性愛は別軸として省いている。)

1.奉仕
相手に尽くし、または集団の利益を図ることに価値を見出す心理。親は子に対し無償の奉仕心を抱くものだが、対象を他人にまで広げて考えるとわかりやすい。人は多分にこの傾向性を持っているものの、現代社会においては淘汰されやすいので、その感情を抑圧していることが多い。

2.共創
ひとつの価値を相手と共に創りあげようとする志向。知力が優れた者にこの傾向が強く、多くの場合、自分のオリジナルな業績を大切にする心理も併せ持つ。

3.共闘
共通の攻撃対象を持ち、共同で目的を達成する心の動き。結束や求心性の原動力になる。会社や団体競技などの組織運営に活かすべきだが、その一方で、戦(いくさ)に駆り立てる感情もこれと同じ原点を持つ。

4.闘争
目の前の相手よりも能力やポジションで上に立ちたい気持ち。
これが健全に働けば、よきライバル心がおたがいを高め、組織にも好影響がある。だがいたずらな攻撃性が全面に出ると、自慢話に終始したり、目の前の相手を罵倒したりと、大きく和を乱すことにもなりかねない。自己の優位性をそこまで貪欲に確認したがるというその裏には、抜きがたい劣等意識が隠されていることが多い。

5.嗜虐
相手に残忍な仕打ちをすることで快感を得る。言葉や感情面の圧迫も、直接の身体的な攻撃も含む。

6.略奪
財物や感情的満足などを奪い取る。財物とは金銭・物品・情報のこと。
「意地悪」は、≪嗜虐≫のカテゴリに入るとともに、相手を犠牲にして自己の利益(感情的満足、優位性、経済利益)を得るという意味で略奪カテゴリにもまたがる。この場合の経済利益とは、職場で人を陥れることで相対的に自分のポジションを上げ、出世に結び付けるなどのこと。

7.利得
相手の持つ地位や財力を頼って、財物(金銭・物品・情報)・口きき・人脈・利権配分などの経済的利益を期待する姿勢。

8.承認欲
他人からの賞賛を求める。ほめられたい、尊重されたい。自尊や劣等の複合的な感情を収めるために他者評価を望む気持ち。悪評を避ける防衛的な姿勢もここに含む。

9.依存
対人関係や集団への帰属が、自分の存在を証明する手段(アイデンティティ)になっている。依存する対象が一人の人の場合、機嫌をうかがったり自分の行動を同化させようとする。相手が集団の場合は、それを愛するあまり、しばしば組織防衛に走る。

10.共感
共通の立場や体験、感情や価値観を基に、互いの存在を尊重し合う姿勢。この方向性が高まり純化していくと、立場の違いを乗り越えて普遍的な共生意識にまで至る。別稿でも議論するが、社会に生きるために、また社会を生かすために、切り札となるのがこの共感の力だ。

11.寛容
他人を認め、許す心の傾向。「あきらめ」や「忍従」とは無縁、あるいは正反対だ。本人の自信が高まるにつれ、寛容の対象は他人の能力や嗜好・思想・存在自体などに広がっていく。

0.友愛
無差別な肯定と包摂的な愛情。これは人の行動や思いのあちこちに顔を出す普遍的なものだ。しかし無差別さと包摂の度が進んでいくと次第に生きにくさが増してきて、「1.奉仕」「11.寛容」よりもさらに抑圧される傾向が出てくる。

◆「対人志向の円環」を使って、次回からは対人志向の組み合わせと、個人や組織での活かし方を検討する。

(あもうりんぺい)

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