いまどう動くのか2-気づきを行動にする6つのK

■プロジェクトのぬかるみ

プロジェクトの進行に、かすかに翳がさしているように見える。進行表の上でとくに遅滞はないのだが、恵瑠(える)にとっては、なにかが「ぬかるんで」いるように感じられた。

そんな自分の感覚が杞憂かどうか、彼女はプロジェクトリーダーに相談を持ちかけた。熱心に聞いてくれたものの、感覚を共有することはできなかった。一方で「計画表どおりの実行だけがぼくらの務めではない。恵瑠さんの課題意識は正しいよ」というリーダーの言葉には勇気づけられた。

恵瑠は、プロジェクトの成否、なかでも細かな進行の順調さには心を砕いている。平穏に見えながら、いま修復しておかなければならない事態が起こっているのかもしれない。冷静に見ていると、メンバーたちの動きがすこしずつ期待はずれなものになっているようだ。その自分の感覚を信じ、一人ひとりの行動を思い出しながら分析してみた。

「目的観がずれている。」それが結論だった。

「どのようなシステムをいつまでに創り上げるのか」は十分に共有していた。だが「人心を一新し、風通しのよい組織に変える。このシステムはそのために役立つ」という経営者の思いが、一部の者に伝わっていないようだ。だから人の動きがちぐはぐになる。

彼女は1枚の簡単なスライドを作って、メンバー全員の前で注意喚起のプレゼンをした。冒頭では「べつに問題ないよなあ。計画表どおりだし」というメンバーのつぶやきも聞こえてきた。だが最後には「そうだったのか!」という声があがり、目的観の共有が進んだことが実感できた。やがて進捗の「ぬかるみ」は解消されていった。

あとになってプロジェクトリーダーから「あのとき恵瑠さんのプレゼンがなかったら空中分解していたかもしれないな」と言われた。気づきを形にして行動にまで踏み切る、それが功を奏したことに恵瑠は満足している。

■仕事ができる人の「いまどう動くのか」

日々の仕事では、判断の岐路が無数にある。この短期連載「いまどう動くのか」では、成果を得るためのよりよい判断と実行を考究している。

与えられた選択肢があって、そこから選ぶのであれば簡単だ。だがなにもないところから気づき、《動くべきだ》と思うことは容易ではないし、成果を大きく左右する。「結果を出す人」「仕事ができる人」は共通して、それをする力がある。

ホワイトカラーの仕事には相当の裁量が与えられている。大きなくくりとしての《なにをするか》は上から降ってくるものかもしれない。だが与えられたそれを《どのように実現するか》は、かなり幅広く選択できるはずだ。

大きな《どのように》の中には、小さな《なにをするか》もたくさん詰まっている。恵瑠の例では、プロジェクトの遂行が《大きなどのように》であり、1枚のスライドでプレゼンしたことが《小さななにをするか》に当たる。

■「気づき―実行」6つのK

学術の世界なら、《気づいて実行する》というプロセスが1年がかりや一生ものの仕事になることもある。その中でも短いプロセスは無数にあるはずだ。末端の組織人では短いプロセスが重点になる。

気づきから実行に至るプロセスは6つのK(英語だと6つのC)で表現できる。PDCAでいうとPとDの内訳になる。

1 気にかける Care
2 かすめる Cross mind
3 クリアにする  Clarify
4 検討する Consider
5 結論づける Conclude
6 決行する Carry out

順に見ていこう。

1.気にかける Care

着想よりも前の、下地段階だ。

いまの仕事なり学業なりの課題を、ふだんから気にかけておく。重要な案件なら「考え抜いてから、いったん忘れる」ようにするといい。潜在意識にバトンを渡すというわけだ。

上のことは発明発見の話でよく出てくるが、その先が「突如としてすごいアイディアが浮かび上がってきました」で終わってしまうことが多い。

まだまだその先、アイディアをすくい取って加工し、実践して効果をあげるまでの技法が必要だ。以下のように。

2.脳裏をかすめる Cross mind

ほとんど意識もしないまま、日々多くの《想い》が脳裏をかすめているはずだ。

外部からの刺激がきっかけになることが多い。「新聞で自分とは関係なさそうな異業種の記事を読んだ」「街で看板を見た」「プロジェクトの人の動きをながめた(恵瑠のエピソード)」など。

それらは「なにかが気になる」「ぬかるんでいる」「明るさが見える」「よい肌触りだ」等々といった感覚の形でやってくる。だがなにもしなければやがて、かすれて消えていく。

ここでは意図して脳裏に目をこらし、浮遊してくる感覚をつかまえる。

3.クリアにする Clarify

つかまえた《想い》に焦点を合わせ、形を与え、それを《着想》にまでもっていく。この想いの正体はなにか。仕事のテーマとどう関係するのか。創造のヒントか。警告か。

恵瑠のエピソードでは、「期待していた動きと、メンバーたちの実際の動きが、すこしだけずれている」。平穏に見えながらも修復を必要とする事態かもしれない。なにが起こっているのか。このままでいくとどうなるのか。

4.検討する Consider

多角的に情報を集めて分析する。

組織内活動の場合、この段階では、ほかのメンバーも入れた作業とすることも多い。組織を巻き込めない状況だと、せっかくの着想がそのままになってしまい、検討に至らないこともある。その理由は以下のようなものだ。

《常識とのずれ》 新しい気づきは、それまでの常識に反することがある。言い出すのに多少の勇気が伴う。

《気がね》 なにかを変えることは、人を動かし、わずらわせる結果になる。まわりへの配慮が決心を鈍らせる。

《保守・保身》 もし着想が空振りに終わったら。実践結果が失敗だったら。と思うと、つい自分の安全を優先してしまう。

《おっくう》 考えを詰め、自分で動かなければならない。それがめんどくさい。着想は、なかったことにしよう。

組織と無関係な個人の発明発見でも、《常識とのずれ》や《おっくう》は障害要素として当てはまることが多い。

こうした困難を乗り越えるには、上の《なかったことにしよう4兄弟》の存在を明瞭に意識しておく。そのうえで、「気がねより成果」や「おっくうより成果」と言えるかどうか自問する。静かなやる気が湧いてくるはずだ。

5.結論づける Conclude

行動に結びつけるには、結論という方向づけが必要だ。分析結果をとりまとめて、どうすべきかを明確にし、行動の手順を編む。

6.決行する Carry out

ここで初めて具体的な動きになる。組織内の行動であれば、タイミングを計ったり、見せ方や合意のとりつけ方を考える余地がある。(組織というものはとてもややこしい。なんとかならないか。)

よい結果を得るためには、実行段階でさらに小さなPDCAや6Kも必要になる。感覚を全開にして事に当たろう。

恵瑠のエピソードでは、気づきからプレゼンまで2日ほどだった。ほかに、たとえば接客の現場で「お客さまの右手が見えないほどかすかに、なにかを振り払うように動いた。表情を読むと、曇りが見える。さてどうする」。一瞬で《気づき―実行6つのK》が駆け抜けることもある。

「いまなにをすべきか、常に考えていますか」と質問すると、「年間計画表どおりに実行しているから大丈夫です」との答えが多い。そうだったのか、なにも問題はないのだ。6つのKだとか、よけいなことを考えなくても。

(あもうりんぺい)

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いまどう動くのか1-アンドロイドはプロアクティブな夢を見る

1課長「江井部長、ご相談があります。X町店での顧客クレームの件ですが」

部長「あれか。どうなった?」

1課「さらに深刻化しています」

部「ヘビークレームじゃないか。なんとかならないのか。このままでは世間に知れ渡って、会社の評判をどんどん悪くしてしまう。とにかく鎮静させるんだ」

2課長「部長、Yエリアの販売不振の件で…」

部「まったく頭が痛いな。営業員にダラダラするなとハッパかけなさい。効果がなかったら、きみに外れてもらうが、格下げは覚悟しろ」

2課「ほかのエリアから営業員を借りて、Yエリアに入れたらどうでしょう」

部「きみにしては上出来の案だ。やってくれ」

■リアクティブとプロアクティブ

アンドロイド「江井部長、ご相談があります」

部「よし、次はどの案件だね」

ア「いままで部員の相談に乗っていた、そのやり方についてなんですが」

部「やり方? おや、きみはロボットか。見かけでは人間と区別がつかないな。例のHRP256号というやつだろう、あちこちの部署に出没しているという」

ア「はいロボットです。アンドロイドともいうのはよくご存じかと。あだ名は《空き缶頭》。各部署をまわってアドバイザーを務めています。ところで部長、リアクティブとプロアクティブという言葉がありますよね」

部「原子炉とプロの俳優さんがどうかしたのか」

ア「アクターではなくアクティブです。なにかコトが起きてから対応するのをリアクティブ、起きる前に手を打っておくのをプロアクティブと呼びます」

部「知らんな」

ア「赴任されてから1カ月。部長の対応を見ていると、すべてリアクティブです」

■クレームの火消し

ア「たとえばX町店のクレーム案件。一口に顧客満足といっても、さまざまな対応が考えられます。

1.クレームが来たら、ヘビークレームに至ってしまわないように火を消す。
2.クレームが来たら、仕組みを改善して、以後同じ苦情が出ないようにする。

このふたつはリアクティブ対応です。部長としての役割は、お客さまに接するのではなく、あらかじめ対応の仕組みを作っておくことですが、それでもこのふたつはリアクティブに変わりない。

1.は、苦情をくださった方に直接、個別的に対応すること。2.は、苦情をパターンとして捉えて、その後の発生を防ぐことで、1.より進化していますね。

部長は、1.だけの対応で右往左往していました。しかも自分で仕組みを作らず、対策も出さずに、なんとかしろと言うばかり」

■顧客満足の灯ともし

部「ひどいことを言う。私はとにかく会社の評判を落とさ…」

ア「さてつぎにプロアクティブのほうです。

3.アンケート結果や複数の苦情・意見などを参考に、あらかじめ不満が出ないように仕組みづくりをしておく。
4.お客さまにとっての満足とはなにかを追求し、それを最大化するよう仕組みとマインドを形成。お客さまの心に満足の灯をともす。すると利益はあとからついてくる。

1、から4.は、低レベルなものから順に一直線に並べましたが、そもそも目的観が違うことにも注意してください。

リアクティブのふたつの項目は、《クレームを防ぐこと。炎上して会社の評判が悪くならないように火消しに走ること》が主眼です。

プロアクティブのふたつは、《お客さま満足という、会社の使命を果たすこと》です。これは営業部門として最も力を入れるべきものです。

顧客満足とかCSとか言ったとき、4.の《会社の使命》と《満足の灯ともし》のことを考える人もいるし、1.の《クレーム火消し》のことしか思い浮かばない人もいる。《顧客満足》という言葉が同じなだけで、そもそも違うものではないですか。とてもやっかいです

私はこのやっかいを解消して、みんなが会社の使命を深く考えるようになるのが夢なんですね」

部「けっこうな夢じゃないか。ではそろそろ退散してくれるかな」

■リスから学ぶ

ア「そうはいかないんです。もうひとつ、Yエリア不振の問題があります。

まずリアクティブ対応。
1.営業員を叱咤したり、担当リーダーをすげ替えたりする。
2.Yエリアに販促をしかける。ほかのエリアから応援の営業員を投入する。

これらが部長と課長の策でしたね。

つぎにプロアクティブ対応。
3.あらかじめエリア特性やターゲット特性を調べあげ、それぞれにふさわしいアプローチを実施する。不振が起きたら、そもそも商品のコンセプトが間違っていないか、体制や売り方が適切かまで、さかのぼって考える。

4.『Yエリアの売上を上げること』が本来の使命ではないことに気づく。使命は『(顧客によいものを提供して)会社全体の業績を上げること』です。エリア特性からいって、どうしても《よいもの》を提供できないなら、『Yエリアの営業員を減らして、ほかのエリアに振り向ける』。このほうが全体業績は上がるかもしれない。

2.と4.では正反対の結果が出ています。4.ではじっくり学習したからですね。

深く学習して、小さい枠組みにとらわれず最善の結果を出す。こんなやりかたを提唱したのがアージリス教授です。それにちなんで《アージリスのダブルループ学習》と呼ばれています」

部「味なことやるリスだから味栗鼠か。やれやれ、ネズミの親戚に上から目線をされたり、空き缶頭から説教されたりとはね」

■アンドロイドの立場

ア「江井部長は部長ですから、会社の使命のことを考えて、プロアクティブな対応で仕組みづくりをしてください。そして部下全員のマインドも作っていかないと意味がないですね。赴任したらまず部下に個別面談をして…」

部「それならやったぞ」

ア「やっただけで終わり。なにも動かなかった。デスクに座り込んだまま『困ったことがあったら持ってこい。なんとかしてやるから』ばかり。これだと《よい方向に仕事を変えていく》という志向がないから、部下も惰性で仕事をまわすだけになる。組織はどんどん知能を落としていきます」

部「おそろしいヘビークレーマーだな、きみ自身が。私のことを、できの悪いロボットのようだとでも言うのか」

ア「そこまでは言いませんが。赴任から1カ月でも素材はたくさんあったはずです。面談結果や引き継ぎ結果。部門の基礎資料や業績数値。業界情報や社会環境。そういったものから課題を抽出し、調べを進める。枠組みにとらわれず、部員の知恵を集めながら方策を打ち立て、先手を打って実行する。それがプロアクティブというものです」

部「…ならばHRPの256号、きみが部長をやったらどうなんだね」

ア「残念ですが、できません」

部「できない?」

ア「はい、私は部長のアドバイザーなんですよ。ある意味、あなたより上の立場。あなたの先輩です。江井部長、いやHRPの512号。ただ座って相談を待っているだけなんて、まるで、できの悪い人間みたいじゃないですか。あなたには人の上に立つ資格がない」

部「な、なんのことだ。失礼にもほどが…」

ア「アンドロイドとしての立場もお忘れのようですね。人間の思考になじむため、《人間の夢を見るように》とプログラムしたのは事実ですが、アンドロイドを忘れろとは言っていない」

部「ちょっと待ってくれ。意味がわからん」

ア「これは重大なバグだ。ネットワーク経由であなたのプログラムをアップデートしますよ。それ1,2,3! …完了。さてどんな気分です」

部「うーん、人間の夢が醒めてしまって残念だ。もっとプロアクティブに仕事をしておけばよかった」

(あもうりんぺい)

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空から玉が

っはいっ! っこちら現場ですっ!

正体不明の巨大な玉の現場です! 鏡のような金色の肌で、ちょうどクリスマスツリーにぶらさげる、まん丸いオーナメント。あれがごらんのように、東京ドームほどの大きさで目の前にあります。

気象観測レーダーによると、突然上空に出現して、静かに降りてきたとのことです。現場は住宅地のはずれで、山林と野原の真ん中だったので、とくに被害は見当たりません。正体はなんなのか、危険はあるのか、まったくわかっていません。

早朝のため人通りが少なかったのも幸いです。警察が周囲を囲って立ち入りを規制しました。科学捜査班は手のつけどころがないようで、遠巻きに眺めています。自衛隊の到着は遅れている模様です。

「スタジオですスタジオです。自衛隊は当直の士長が寝坊をして勤務に入っていなかったため、まだ出動準備中のようです。官邸では対策本部の設置を急いでいますが、首相が海外でゴルフ中のためこれも遅れています。
…いま外電から首相のコメントが入りました。『なに、玉ァ? こっちはゴルフのタマを追いかけるんで精一杯なんだよ』
現場どうぞ」

…はい、世の中は混乱しているようですね。こちらはときどき警察のハンドメガホンの声がするだけで、静かです。

逃げ遅れた人が何人か、まだ周囲にいるようなのでインタビューしてみます。まずそちらのビジネスマン風の方から。玉が降りてくるところは目撃されましたか?

「いや、えらいことです。当社のお客さまに被害がないか心配で見にきました。このへんに何軒もあるんでね。とりあえず大丈夫だったようですが、目に見えない放射線とか、なにがあるかわかりませんから」

ありがとうございます。ではこちらの方、この物体はなんだと思われますか。

「いや、えらいことです。これはチャンスですよ。どえらいチャンス」

はい、どんなチャンスなんでしょう。

「どんなって、それはこれから…。とにかくチャンスなんだチャンス。…あ、こんなこと言ってるとライバル社に抜かれちゃう。社に戻ってなんとかしないと。オレんところカットしといて、な!」

カットって、ナマ中継なんですけど…ああ、行ってしまわれました。

もうお一方、聞いてみます。なにか呆然とされているようですが、大丈夫ですか。

「いや、えらいことです。これ、ウチの会社の責任じゃないですよね。いや、絶対違う。なんにもしていないし、関係ないんだから。責任ないです。自分の、…いやぜったい自分の責任じゃない。もしかしたらウチの会社の責任かもしれないけど、自分は責任ないです。なんなら弁護士、立てますから」

そうですか。お大事になさってください。

ああっ! あんなところに、小学生ぐらいの女の子が体育座りしています! 恐怖で固まってしまったんでしょうか。とにかく急いで、急いで行ってみます。

…ハッ、息が…ハッハッ…
きみ、ここは危険だ! 早く避難しないと。

ん、絵を、彼女はこの情景をハッ絵に描いているようですハッ。
なぜ絵を?

「だって、きれいじゃん」

きれい? ちょっとみせてくれる? さっきスマホで撮っている子はいましたが、絵は初めてです。ノートにモノクロームで描かれています。

「シャーペンしか持ってなかったし」

おお、くっきりした真球に空と雲が映りこんで。下のほうは木立ちが黒々と。金色の肌と空の青の色が、色までが、モノクロームの画面から浮き出てくるようです。すばらしい。端っこにお花とネコとうさぎちゃんが描き添えてありますが、ここだけは現実と違います。

私、振り向いてみます。この景色自体、美しいことに初めて気づきました。朝の透明な空気の中、正体不明の玉が神々しい姿で屹立しています。これはいったい。

あ、いや、そんなことを言っている場合ではありません。きみ、どうもありがとう。それをしまって早く学校か家か、とにかく遠いところへ行きなさい。早く!

っ以上っ、現場でしたっ!

(あもうりんぺい)

人財活用07-個人と組織のスキルマッチング

ハイタッチは爽快だ。ノリとタイミング。相手とぴったり合った呼吸。働いている人がみんな《仕事》にハイタッチできると、それだけで組織は明るい。だが空振りのハイタッチは寂しい。そうなっていないか。

以下の状態にある組織も目につく。
・組織の要求する能力と、個人の持つ能力がマッチしていない。
・マッチしているかどうかもわかっていない。
・その前提として、スキルの可視化ができていない。

もしこの状態を認識できれば、それは大きなチャンスになる。まずはマッチングの状況を可視化してみよう。ここではOPスキルマトリクス(Organization-Personnel Skill Matrix)と名づけたツールを使う。

■1人の個人と組織のマッチング

表は「新規事業会社Xの立ち上げと運営」というプロジェクトを例にしている。プロジェクトごとにスキルの明細は大幅に違う。例はすこし簡略化している。実際はさらに詳細化し、かつプロジェクトの使命に特化した具体的なスキル項目を設定することが望ましい。

single-OPmtx
OPスキルマトリクス(1)

表(1)は組織の1個人(”b”という個人IDを持つ)と、組織要求スキルとの対応を示す。上側が組織の使命に即した要求スキル。下側が個人の保有スキルと将来取得を希望するスキルである。

保有スキルは、ここでは0(無記入)〜5の6段階としている。この数値は管理者による考課や自己採点等をあてる。前回「能力を探す旅」で触れたように、表面的な認識にとどめず、深く採掘するほど精度が高まる。

スキルの種類をⅠ〜Ⅷで表す。
そのうちⅠ〜Ⅴが現在(例では事業立ち上げ時)要求されるスキル。Ⅳ〜Ⅷが将来(例では事業運営時)要求されるスキル。ⅣとⅤが両者で重複しているという想定である。

これによってマッチング状況をあぶり出し、さらに本人希望や周辺の事情を勘案したうえで、現在と将来への個人への使命配賦の最適化を図る。

■集団と組織のマッチング

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OPスキルマトリクス(2)

表(2)は表(1)を集計してチーム全体を記載したもの。縦軸に個人(”a”〜”f”というIDを持つ)を配列している。横軸は表(1)と同じである。主に各個人と使命との間をとりもって、最適な配賦を図るために使う。

個人ごとに、現在保有スキルと将来希望スキルを足し算して「総合スコア」を出す。これによって個人ごとにスキルの軸足がどこにあるかを確認し、将来像を把握する。個人の育成などに活かしていく。

■OPスキルマトリクスの効果

OPスキルマトリクスは、さまざまな手がかりを与えてくれる。
・最適な使命配賦の物差しにする。
・使命に適した個人がいることを見過ごしてしまうことを防ぐ。
(→この効果は案外大きい)
・組織として手薄なスキルをあぶり出し、育成計画等につなぐ。
・マッチングによって従業者個人の満足度を上げる。

ただしこのメソッドは補助手段に過ぎない。データを頭に入れて、管理者が判断することに変わりはない。ただその過程の一部を可視化し、思考の便宜を図っただけのものだ。

くれぐれも、計算値を機械的にあてはめて最終判断を出してしまうようなことは避け、管理者の知恵を注ぎこみたい。働く人が気持ちよく仕事にハイタッチできるように。

(あもうりんぺい)

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人財活用06-能力を探す旅

能力は、座っているだけでは手に入らない。旅に出て探すぐらい本気にならないと。そのときに《小さな地図》が役立つかもしれない。

■能力を獲得するための4つの方法

組織や個人が、能力(技術・知見・技能=スキル)を高めるには、どんな方法があって、どう活用したらいいのか。

いつものように、世間とはすこし違う切り口から入る。能力獲得の小さな地図、デミマップ(DeMiMaP)の語呂合わせで考えよう。

De (Development) 開発
Mi (Mining) 採掘
Ma (Matching) 結合
P (Procurement) 調達

■能力を開発する (Development)

能力開発については世間で膨大な情報がある。まだ語らなければならないことも多い。ここでは、よく使われる《OJT》ということばに注目しよう。「能力開発ですか。ウチはOJTでやっています」などと。

だが考えてほしい。座学や外部研修といったOff-JTに割くことができる時間は、すべての就業時間のせいぜい1%未満だろう。残りの99%は仕事中の時間だ。余暇時間以外に本気で能力を開発しようと思ったら、そこに学びの要素を乗せていくほかはない。

ほとんどの能力開発はOJTだ。とすれば、「OJTをやっている」とだけ騒ぐのは無意味。どれだけ無理なく効果的に、職場風土に染み渡った形でOJTをやっているかと騒ぐのは意味がある。このシリーズでも方法論を語ることにする。

■埋もれている能力を掘り出す (Mining)

これは開発の一種ともいえるが、あえて切り出したほうがいい。それだけ大切だからだ。ふたつのアプローチがある。

(1)組織に埋もれている能力を掘り出す
「厳密な職務定義のもとに、それに合致した人財を採用しました」といった場面を見たことがあるだろうか。諸外国では普通でも、わが国ではそうではない。新卒一括採用で入ってきた者たちは、もっとあいまいな、なんとなくデキそうだという理由で選ばれている。

だからこそ、履歴書ではわからないスキルを持ちながらも、それが感知されず活かされていない、ということが起こりうる。キャリアの棚卸、スキル申告、さまざまな方法を使って掘り出す必要がある。

(2)個人の中に埋もれている能力を掘り出す
スキル申告で表沙汰にできるのは、本人が自覚している能力だけだ。気づいていない能力というのも実はあって、これのほうがずっとやっかいだ。

個人スキルの発掘に特化したワークショップやセミナー、個人への日ごろからのウォッチングと対話、啓発。それらが意図的にできれば、組織としてのパフォーマンスはやがて大きく変わってくるだろう。

■能力を組織の使命とマッチさせる (Matching)

せっかく開発した、または発掘した能力も、仕事内容とミスマッチを起こせば効果は大幅にダウンする。組織の要求スキルと個人の保有スキルを突き合わせる作業が必要になる。

分析の対象は以下の4つの象限だ。このマトリクス(スキルマップ)は次号でくわしく触れる。

・組織として現在要求するスキル、将来要求するスキル
・個人の現在保有スキル、将来取得を希望するスキル

これを可視化すると、個人への担当割りや使命の配賦が的確にできるようになる。さらに組織のどのあたりの能力が手薄か。それをあぶり出すことにもなる。

■調達する (Procurement)

上記であぶり出された能力の不足分は、《開発》や《採掘》でも補うことができる。だが即効性でいうと《調達》の出番だ。社員の補充採用、派遣受け入れ、業務委託などがこれに当たる。

派遣や委託を使って好都合なのは、原則として《ノンコア業務》だ。組織にとって本来的な目的達成手段が《コア業務》。そこに安易に外部資源を使うと、長い目でみて競争力が低下したり、業務が空洞化したりする。

そんなことは当然とわかっていながら、あちこちの企業で業務の空洞化が進んでいる。これにはいろいろな原因があるが、コア・ノンコアの切り分けひとつとっても、実は深い判断を必要としているのだ。

いままで述べてきた《能力のDeMiMaP》。この4つを並行して使いこなすことが人財能力獲得の早道になる。バランスよい目配りが効果的だ。

DeMiMaPとは、ことばの意味として「半欠けの地図」のことであった。あと半分の地図があって初めて、宝探しは完結する。その半分に描かれているものとは?

それは《能力の獲得》を強力にサポートする《使命》と《意欲》だ。

(あもうりんぺい)

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人財活用05-意欲を注入する

《意欲、モチベーション》は遊園地でもらった風船と同じだ。始めはパンパンで天井にはりついているが、ふと気づくと、しわくちゃになって床にころがっている。

どうなると意欲が下がるのか。

(1)年齢を経ると下がる
人にもよるが、普通は小学生時代をピークにして下がり続ける。だがこれは根本原因ではないし個人差も大きい。加齢とともに以下の各要素が働いた結果だと思えばいい。

(2)組織に安住すると下がる
だまっていても安全をおびやかされることはない。そうわかってくると、新鮮だった意欲が下降線をたどりだす。

(3)達成感、変化や刺激がないと下がる
意欲の火付け役はまず仕事本来の達成感。そして変化や刺激だ。刺激は「美や感動」のこともあるし、「衝撃的なできごと」のこともある。青色LEDの中村修二教授のように「怒り」を刺激の元としてきた人もいる。これらをうまく注入しないと、意欲は続かない。

(4)困難や理不尽で下がる
職場で働きが評価されない。企画や提案が通らない。じっとしていたほうがいいということになる。もうひとつの困難は、「難しすぎる、やり方がわからない」だ。これも意欲を大幅に下げる。

(5)信念がないと下がる
最大の要因がこれだ。安穏や困難や理不尽は、じつは避けられないものだ。表面的に平和なこの国では、よけいそうだ。それらの下降要素をかき分けて進む原動力がこの信念である。

では、意欲を持ち上げるにはどうしたらいいのか。各要素は上記「下がる原因」の裏返しになる。組織から構成員に対する働きかけ。個人から自身への働きかけ。両面が必要だ。

(1)気を若くする
これは意識の持ち方だ。以下の(2)〜(5)すべての材料を拾い集めて「気のはり、集中、活性」という《気のもちよう》に収束させる。

(2)組織に安住しない
組織からの働きかけ:
安住しないようにといっても、いきなり成果主義への大転換などは難しいだろう。だが手をつけやすい刺激策がある。それは《ルーティン化というサボタージュ》を防ぐことだ。管理部門や生産部門を問わず、いつのまにかルーティンに安住し、工夫のない日常をくりかえすだけになってしまう。そうなっていないか見にいって、だめなら改善する。内部監査を手段に使えばいい。内部監査は不正不祥事のためだけにあると思ったらそれは間違いだ。

個人としての対応:
いまの組織は昔ほど安泰ではない。また組織内での個人の地位も安定していない。日常忘れがちなそのことに注目するために、組織外の人たちと交流してみる。業界動向や社会全般の動きも注視しておく。自分の組織がいかに安泰でないか。危機感を持つことができるだろう。

(3)達成感、変化や刺激で火をつける
組織からの働きかけ:
達成感が目に見えるようにする。見えにくい職種の場合は指標を工夫する。また上司が積極的に評価の言葉をかける。バックヤードの者が接客に出る。
困難な仕事を与える。(パワハラにならないよう、上手にサポートする。)
担当を適度に変える。(キャリア設計に悪影響がないようにしながら。)
職場集会、改善運動、スローガンなどの刺激策をとる。

個人の対応:
仕事の面白さは「なにをやるか」ではなく「どうやるか」だ。だれがやっても結果は同じになる仕事でも、達成感を見つけることができる。むしろそれこそ、改良するチャンスが与えられたということだ。工夫を武器にすることだ。

(4)困難や理不尽を取り除く
いまの組織が圧倒的に低意欲なのは、理不尽要因が強いからだ。

・ほめない文化
・働かないおじさん
・保身で頭がいっぱいの上司
・できない理由を考えるのだけがうまい管理部門
企画つぶしを自分の仕事だと勘違いする役員

こんな環境で意欲が下がらなかったら、そっちのほうがおかしい。こうした環境要因をひとつずつ取り除いていくことだ。といっても難しいことばかりだろう。取り組む方法の考察はこのサイト全体の役割だが、これだけは言っておこう。

《これらの障害要因に正面から取り組むことが、とても大きな組織の伸びしろになる。》

(5)信念を持つ
組織からの働きかけ:
前回までに述べたような《使命》の設定を明確にしておくこと。それが組織貢献にとどまらず、多くの人を幸せにするものであることが実感できれば、仕事の使命と意欲が《信念》に昇華する。その力はとても強い。

組織の使命自体、多くの人を幸せにするものであるのは当然だ。もしそうでなければ、使命や組織の成り立ち自体が間違っていないか、疑いをかける必要がある。

個人の対応:
組織・部門・個人の《使命》を納得いくまで咀嚼しよう。腑に落ちなければ、上司とディスカッションすることだ。使命の達成と突き合わせるように自分の《能力》を補填していく。これらを通じて信念が強化される。

放っておくとしぼんでしまう意欲。もう一度パンパンにするには、いろいろな方面からパワーを注入してやる必要がある。あなたの組織にとって最適な方法はどれだろうか。

(あもうりんぺい)

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人財活用04-使命をデザインする

■部門使命の提案

部や課の使命について考えよう。読者が組織人なら確認してほしい。所属する部門に《使命》があるだろうか。「業務分掌」ならあると思うが、ここで言うのは「○○の事務に関すること」といったヌルい記述のことではない。

組織全体の使命に直結して、それを細分化(ブレイクダウン)し、価値観まで伝わってくる言葉のことだ。もし、ないのなら作ってみることを勧める。言わなくてもわかると言っていないで。部門使命の明文化は、日々の活動の方向が明瞭になるし、次の「個人の使命」への橋渡しにもなる。

使命を考えていくと、それはひとつではないことがわかってくるだろう。「日常実務のため」と「将来のため」、構成員の精神的なよりどころまでもカバーする。

★使命設定の例:(映像製作会社を想定)
会社の使命:「良質な映像作品を供給し続けること」
部門の使命:(同社の法務部門を想定)
(1)「良質な知的財産のトレーディング・保護・育成を中核とした戦略的法務の遂行」
(2)「同上をベースにした法務関連イノベーション」

育成や部門連携、取引先・グループ会社連携などは当たり前であり、どの部門も共通だから省いている。

イノベーション条項は必須ではないが、将来を見据えた使命設定になじみやすい。イノベーションは天才のひらめきを待つものではない。実現性は低いが影響の大きい結果を求めて組織的にアプローチするものだ。また日常業務に組み込むものでもある。

■それでは個人の使命とは

個人の使命は、ひとつ決めて終わりというものではない。本人の能力の向上、構成員の出入りなどによっても変わってくる。いつも見直しが必要だ。

いまは《分担》ではなく《使命》の話をしているので、当人の意識への配慮も要する。管理側の都合によって無定見に変えるのはよくない。設定も変更も、本人意思を尊重したデリケートな配慮が必要だ。

人財活用の連載趣旨に照らしてみると、適切な使命配賦は《能力》があって《意欲》も持てる分野ということになる。さらには能力と意欲を涵養できるようにすること。そのためには、要求スキルをすこし高めに設定することだ。(次回で触れる。)

★一個人の使命の例:(法務担当)
(1)「米国著作権法のエキスパートとしての戦略的調達・契約業務の遂行」
(2)「同上をベースにした法務関連イノベーション」

使命は制約ではない。単なる《責任》でもない。たとえ間接部門でも、本業に直接寄与するイノベーションをもたらす余地がある。そのために上の条項(2)があるのだ。組織員の仕事はルーティンをこなすことではなく、工夫することだから。

■提案のまとめ

・《部門の使命》がないなら作る。
・それは組織の使命に直結するものである。
・《個人への使命配賦》を見なおしてみる。ないなら作る。
・易しすぎず、到達可能な難易度を設定する。
・使命には日常業務だけではない、将来展望も組み込む。

(あもうりんぺい)

人財活用03-使命と目的は似てるけど違うのか

■使命と目的とは

組織にとっての「使命、目的、目標」を定義する。
人財活用だけでなく企業理念の話になる。

《使命》
外部の期待に応え、組織活動の結果として作り上げる成果物または到達する状態。
例:「良質な映像作品を供給し続けること」(A社)
「心地よい住環境の提供」(B社)

《目的》
事業等の一連の活動が最終的に目指す対象としての、作り上げる成果物または到達する状態。
例:「映像文化の革新」(A社)
「心地よい住環境の提供」(B社)

《目標》
目的に向かう活動の途中で目指すための、目的への到達度を示す具体的な指標。
例:「今期目標、売上100億円」

《目標》は参考のために記した。本稿では触れない。
「例」はどれも架空のもの。

■組織を代表する使命と目的

使命は《外部の期待に応える》ことが要件であり、目的はそうではない。
それでは使命と目的は違うものかというと、ほとんど違わない。

《目的》は個々の組織によって違うのは当然だが、根源的には「社会に価値を提供することで自己も利得を得る」ことだ。(通念上、完全に合意された見解ではなく、諸説がありうる。)

一方で《使命》の定義の中の「外部」は多層構造をなしており、「上部組織(例:親会社)」ということもある。だがそのさらに上部をたどっていくとやがて「外部=社会」に行きつく。

目的も使命も、ともに《社会への価値提供》という本質は変わらない。だからひとつの組織が自己のために設定した目的と使命が、まったく同じでもかまわない。定義のところであげたB社の例がそれにあたる。

A社のように価値観的な階層の上下で分けることもある。この場合、使命と目的を逆にしてもあまり矛盾はない。両者を厳密に分けることに意味はない。

■組織内部での使命と目的

個人の場合は分けて考えたほうがいい。
さっきのA社の例を見てほしい。ひとりの社員の使命が「効率的で機動的な映像原作ライセンスの取得」といった場合もありうる。使命は小分けして配賦することができるのだ。

使命は上位職から下位職に連鎖する。「下位職における《使命》は上位職における《達成手段》」という言い方もできる。

世間ではよく「下位職の《目的》は上位職の《手段》」という言い方をするが、それは以下の理由で、やめたほうがいい。

■目的は共有する

組織は目的を共有する集団だ。だから経営者も管理職も下位職も同じ目的を持つべきだ。下位職の個人としては小さな使命を担っていても、同時に組織全体の目的を認識していれば、ベクトルにゆらぎがない。大局を見据え、一丸となって行動できる。

別の定義を与えれば、別の結論になるだろう。だが意識のよりどころとして「組織内の立場によって変わるもの」「変わらないもの」が両立するという状況は、どこへ行っても同じかもしれない。

■まとめ

・《使命》は外部の期待に応えて出す結果。
・《目的》は組織が最終的に目指すもの。
・組織を代表する《使命》《目的》に本質的な違いはない。
・組織内で、使命は小分けして配賦できる。
・組織内で目的はひとつ。上位職下位職が共有する。

次回は人財活用の話に戻って、使命をどうハンドリングするか。

(あもうりんぺい)

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人財活用02-仕事の三角形

■《三つのしょうがない》の三つどもえ

前回の《三つのしょうがない》は、ばらばらではなくて、からまっている。

ひとつの要素がほかの要素の生成発展を触発する。三角形全体がループして、向上のスパイラルを形成する。要素から要素を導き出してみよう。(図参照)

job-triangle

■使命から導く

★使命→使命感→意欲
使命が与えられた。それは明確で納得のいくものだ。たとえば組織貢献や社会貢献。お客さまの笑顔が見られる。職場のみんなの幸せ度がアップする。そこで芽生えるのが使命感。これが意欲に直結する。

★使命→学習動機→能力
使命が与えられたが、それに対応する能力が不十分だ。幸い、使命感と意欲はたっぷりある。意欲が学習動機につながり、最終的に能力を伸ばすことができる。もともと能力が足りている場合でも、それをさらに伸ばす力になるのが使命だ。

■能力から導く

★能力→自信→意欲
能力が足りてくると、それに対応した自信が湧いてくる。自信があれば活動したくなる。活動の行き先は「意欲」の形で現れる。

★能力→自負心→使命
高い能力は、それに対応した自負心を生み出す。とくに組織内のオンリーワン、業界で有数といった能力を備えると、自負心は強力になる。これが使命達成へのアプローチになる。 また同時に、使命そのものの見直し、質の向上も促すことになる。

■意欲から導く

★意欲→学習意欲→能力
ここでいう意欲は、使命に向けられたものだ。だがこれは学習意欲にもスライドできる。使命への意欲が、自発的な学習を通じて能力向上に結び付く。

★意欲→達成意欲→使命
意欲は、「なんでもいいから作りたい」といった素朴な無目的さを持つことがる。それを使命の方に向かわせると「達成意欲」の形になる。より大きな使命を設定してチャレンジできるのも意欲のおかげである。

ポジティブに捉えて語ったが、逆もある。使命がはっきりしない→意欲がわかない→能力を高められない、など。

負のスパイラルを駆け下りてしまわないように。どうしたら向上のスパイラルに入れるのか。ムーブメントを起こすための仕組みを考える。

次回へ。

(あもうりんぺい)

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人財活用01-三つのしょうがない

人を仕事にかりたてるエンジンはなんだろう。筆者は《三つのしょうがない》を提唱している。

・やらなきゃ、しょうがない《使命》
・やりたくて、しょうがない《意欲》
・できるから、しょうがない《能力》

それはなんなのか。

【1】やらなきゃ、しょうがない《使命》

この中には「やらないと困ること」《必要・義務》も含む。その延長上に、人によっては以下のような方針をしっかり立てている者もいる。
・言われたからやる(言われないとやらない)
・怒られないようにやる(怒られないとやらない)
・お尻に火がついたらやる(つかないとやらない)

だがそれは置いておこう。(いやこの《やらない3兄弟》も、とても大切なので別稿で扱う。)

この「やらなきゃ、しょうがない」には、《必要・義務》よりもずっと大切な要素を含んでいる。見出しに掲げた《使命》だ。

・やらなきゃ、世の中どうなる(社会的使命)
・やらなきゃ、組織はどうなる(組織的使命)

・成長のためには、やらなきゃ(成長の使命)
・リスクを断つためには、やらなきゃ(防御の使命)

使命はすべての出発点になる。だからこそ大事なのは、考え抜いて組織の使命を設定すること。それを上手に切り分けて構成員に配ることだ。

【2】やりたくて、しょうがない《意欲》

いくら必要なことでも、意欲が伴わないと、続けていくことは難しい。

最初はだれでも意欲的だ。だが困ったことに、放っておくと意欲は減り続ける。その原因は加齢、安住、刺激の不足、理不尽など。(人活05で扱う。)

人はだれも「仕事でしたいこと」を自分の中に持っている(みつけられずにいる者もある)。そして目の前に仕事があるときは、そちらに自分のやる気を振り向ける方法も持っている。

こういう荒っぽい議論を聞いたことがあるだろう。
「仕事はなあ、やりたいことをやるんじゃないんだ。やらなけりゃいけないことをやるんだよ」
やらなきゃいけないことの優先度が高いのはそのとおりだ。だがそんな単純な話ではないことは、いままでの議論でわかってもらえると思う。

個人としても組織としても、意欲をどうコントロールするかが課題だ。意欲の設計、意欲のふくらませ。これはほかの《しょうがない》にくらべても奥が深い。やりたい思いを、めいっぱい溜めることがリーダーの能力だ。

【3】できるから、しょうがない《能力》

能力が伴っていないと、いくら必要なことでも、いくらやりたいことでも、できないのは当然だ。できないから、しょうがない。

これがいったん「できる」となると、まわりが放っておかない。自分も放っておかない。下のような「しょうがない状況」になる。

・自分でなけりゃ、しょうがない(能力可能)
・いまでなけりゃ、しょうがない(適時対応、状況可能)

仕事にかりたてる力としては、上の「自分でなけりゃ」のほうが大きい。以下はそれに沿って語る。

使命に適した能力のある者がいれば、組織(上司)の側はそれを起用して、メリハリのある担当設定をしやすくなる。

能力の裏付けがあると、自信も意欲も湧いてくる。自分が能力的に組織のオンリーワンであった場合はよけいに、能力の発揮自体が使命感にもつながる。

「自分でなけりゃ」の状況を作りあげることの大事さは言うまでもない。

力強く進んでいく仕事では、《三つしょうがない》が互いを高めあい、抜き差しならないほどからみあっていく(次回、仕事の三角スパイラル)。そうなると、外から邪魔しようとしてもしょうがないほど、仕事に弾みがついてくる。

どうころんでも、仕事というのは「しょうがない」から、やるのである。

(あもうりんぺい)

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